ミニレクチャー No. 78 脊髄損傷 その2:排尿管理

脊髄損傷 その2:排尿管理

 

脊髄損傷によって膀胱と尿道括約筋が麻痺すると、尿意・排尿感がなくなり、頻尿、尿失禁あるいは尿閉となります。尿が出ないために行われる安易なカテーテル留置がもとで治らない膀胱炎を起こし、難治性尿路感染症になり、ついには腎臓の働きを奪って腎不全にしてしまいます。

医療者が自戒しなければならないことは、不必要な「留置カテーテル法」を治療と考えないことです。この考えは特に脊髄損傷直後と回復期に重要です。回復しきって、もうそれ以上変化が望めない、障害として不自由さが残って他に方法がない人には留置カテーテルも選択肢のひとつになります。

尿の出が悪いと、感染症や膀胱内の圧力が高くなり膀胱の変形が起こります。次に膀胱から尿管へと尿が逆流し、水腎症が起こります。そんなことを繰り返しているうちに腎臓機能障害がおこり、最終的に腎不全になります。脊髄損傷の排尿管理のねらいはこのような合併症を起こさせないことにあります。

排尿ができない場合の排尿管理には以下方法があります:

(1)間欠導尿:肛門括約筋が麻痺していれば、神経因性膀胱ですから導尿が必要になります。導尿量が400mlを越えないように4-5回導尿します。尿意があてになれば尿意時に導尿し、尿意がなければ時間を決めて行います。脊髄ショックがさめて排尿筋反射が始まるのは受傷後平均8-9週です。会陰に知覚がある人や尿意がある人の膀胱回復は早くなります。間欠導尿の合間に尿失禁が始まり、導尿量がいつも300ml以下なら回復期に入った可能性があるので、膀胱内圧測定で排尿筋反射が出ているかどうかを確かめます。

(2)尿道留置カテーテル管理:どうしても間欠導尿が出来ない理由がある場合に尿道からカテーテルを留置する管理法です。日本では必要以上に行われています

(3)一時的膀胱瘻管理:全身状態不良でカテーテルの留置が必要なら、尿道からではなく直接下腹部から膀胱を穿刺する手術処置でカテーテルを留置管理します。

また、どの排尿管理方法が可能かどうかは、膀胱と括約筋の反応だけでなく、排尿関連動作が無理なくできるかどうかの身体機能と生活状況も含めた把握が必要です。

脊髄損傷の患者さんが回復期リハ病棟に入院している時期は、排尿障害がどのくらい回復したかを見極めて、退院後の生活にどの排尿管理方法がベストかを判断する大切な時期です。

参考

岩坪 暎二:脊損ヘルスケア・基礎編 第5章 膀胱機能障害, NPO法人日本せきずい基金 2005.