ミニレクチャー No. 45 脳卒中 その3:麻痺について

脳卒中 その3:麻痺について

 

脳卒中による症状で代表的なものに身体の麻痺があります。典型的には右側か左側、どちらか半身が麻痺します。「片麻痺(かたまひ、へんまひ)」と言います。脳はその場所によって担っている機能が決まっており、身体の運動を担う部分の神経細胞や、その神経細胞から手足まで通じている神経の経路で、梗塞や出血が起こることで麻痺が出現します。

 

典型的には、まったく筋肉に力が入らず、筋肉が弛緩した状態の弛緩性麻痺ではじまり、次第に筋肉に緊張がみられるようになりますが、自分の意図した動きは出来ず、ある程度パターン化された運動(共同運動といいます)のみができる様になります。その後、徐々にそのパターン化した運動から、自分の意図した動きができる様になるまでに回復する人もいれば、パターン化した筋肉の収縮が定着して、脳卒中の人に特徴的な姿勢で固定してしまう場合もあります。腕は曲げる方向の屈曲共同運動パターンが出現しやすく、あしは逆に伸ばす方向の伸展共同運動パターンが出現しやすいので、典型的には麻痺した腕は肘と手首が曲がり、拳を握った状態で胸の前にあり、そしてあしは膝が伸び、足首も伸びた状態という姿勢になります(この姿勢をウェルニッケ・マン肢位といいます)。

 

片麻痺の程度を表す方法として、古典的にはブルンストロームステージというものが日本では用いられています。I~VI段階で表されます。ステージIは弛緩性麻痺で随意的な運動が全くない時期、IIは共同運動の出現しはじめた時期、IIIは共同運動を随意的に起こすことができる時期、IVは共同運動から抜け出し始めた時期、Vは共同運動から抜け出した動きができるようになった時期、VIはほぼ正常な運動ができるけどぎこちなさがある時期です。これに全く正常な運動ができる状態をくわえると正確には7段階あることになります。

 

ただ最近は、もう少し定量的な評価が出来る他の方法が使われるようになったためブルンストロームステージはやや廃れてきつつあります。それでもまだサマリーなどでみたり、カンファで聞いたりするので、詳しい評価方法までは覚えなくても数字を聞いた時に、麻痺の程度がどの程度なのか、ぱっと想像できるようにはなっておきたいものです。

 

ここで注意しなければならないのは、麻痺の始まり方も回復の段階もこのステージ通りに進むわけではない、ということです。軽症のひとははじめからステージVの人もいますし、重症のひとではステージIの状態から変わらない人もいます。

 

片麻痺に対するリハは、その時代によって流行り廃りがありますが、現在は運動学習理論に基づいたアプローチが主流で、簡単に言うと、その人の能力でがんばれば達成できる難易度の課題を繰り返し行うことで、失われた神経細胞のネットワークを再構築し、適切な運動を再学習する、というものです。全然簡単に言ってませんね。くわしくはまた別の機会に回します。