ミニレクチャー No. 33 慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは?

慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは?

 

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)、一見すると漢字だらけの長い病名で訳がわからなそうですが、実際はその名前の通りの病気です。つまり、慢性にゆっくりと、時には段階的に進行したり、何度も再発を繰り返す、全身の末梢神経の髄鞘炎症が起きることで、末梢神経の髄鞘が壊れ(脱髄)、左右対称におこる(つまり一つの神経だけでなく全身に多発する)神経炎です。

 

本来は細菌やウィルスなどの外敵に対して働くはずの免疫システムが、自分の体を構成する成分に対して反応し炎症を起こす、いわゆる自己免疫性疾患のひとつと考えられています。CIDPの場合に免疫反応が起こるのは、末梢神経を覆っている髄鞘という部分です。

 

神経は電気信号を伝える電線の様なもので、髄鞘が神経を覆っていることで、素早くスムーズに電気信号を伝えることができます(跳躍伝導といいます)。CIDPでは、この髄鞘を構成する成分に対する免疫反応がおこることで、髄鞘が破壊され、跳躍伝導が行えなくなります。すると、四肢の運動障害(手足の脱力や筋力低下)や、ときに感覚障害(手足のしびれ、痛み)などの症状が出現します。また、脳神経や自律神経も障害されれば、それに応じた症状(顔面の麻痺や嚥下障害、起立性低血圧など)が出現することもあります。

 

治療は自己免疫と炎症を抑制するための治療が行われます。ステロイド療法(免疫反応を抑制する)、血液浄化療法(髄鞘を攻撃する物質を除去する)、免疫グロブリン静注療法(髄鞘を攻撃する物質の働きを抑制する)、免疫抑制剤などです。

 

治療と並行してリハビリテーションが行われます。CIDPの患者さんは活動誘発性脱力(activity-induced weakness)、つまり、張り切りすぎると筋に力が入りにくくなる現象が、健常者の6倍起こりやすいとされています。疲労を避け、障害された筋の使いすぎに注意する必要があります。

 

また免疫抑制剤を使用している場合は、感染症にかかりやすい状態にあるため、感染対策をしっかり行う必要があります(といっても、手指衛生などの「標準予防策」をいつも通り行えばよいだけですが)。

 

なおCIDPは指定難病でありBarthel Indexが85点以下の場合などでは、申請し認定されると保険料の自己負担分の一部が公費負担として助成されます。

 

参考文献:

・慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2013, 日本神経学会, 南江堂

・Web site 今日の臨床サポート