ミニレクチャー No. 28 延髄外側症候群(Wallenberg症候群)とは?

延髄外側症候群(Wallenberg症候群)とは?

 

脳卒中は、問題の起こった血管の場所によって起きる症状は様々です。中には特徴的な症状を示すものもあり、発見した人の名前のついているものがあります。延髄の外側の脳梗塞もそのひとつで、「ワレンベルグ症候群」と言われています。頭蓋内椎骨動脈(特に後下小脳動脈)の閉塞によって生じる症候群です。原因は動脈硬化による脳梗塞が多くを占めますが、椎骨動脈解離も30~40%あり平均発症年齢が50歳前後と比較的若いです。ワレンベルグ症候群では、重度の嚥下障害を呈することが多いです。主な症状は以下の通りです:

  • 障害された側の延髄と同側の顔面の温痛覚障害
  • 対側の頚部以下の半身の温痛覚障害
  • 同側の小脳性失調
  • 同側のホルネル症候群(縮瞳、眼瞼下垂、発汗低下)
  • めまい、眼振
  • 軟口蓋、咽頭喉頭の麻痺による嚥下障害、吃逆、複視

 

予後は原因となった疾患、病巣の拡がりや大きさ、発症年齢などによって非常に個人差が大きいですが、比較的多くの症例で、症状がほぼ発症前のレベルにまで回復します。一方で、重度の嚥下障害が残存する例もあります。

 

発症早期よりリハビリテーションを開始することが重要で、特に嚥下障害に関しては肺炎発症などの合併症のリスクとなるため積極的に介入を行います。嚥下障害が残存した場合は、慢性期であってもリハによる症状改善が期待できるため、継続してリハを行っていくことが重要です。

 

また、少数の報告ですが、ワレンベルグ症候群の患者のなかで、起きている時は自発呼吸が保たれているのに、睡眠時の自律呼吸(無意識で行う呼吸)が障害されて、睡眠中呼吸できない人がいることが報告されています。この症状を「オンディーヌの呪い」と言います。これはドイツの昔話からつけられた病名で、水の精霊オンディーヌがハンスという人間と恋に落ちたものの、結局はハンスに裏切られハンスへ「眠ると息が止まる」という呪いをかけ、眠気に耐えられず眠ってしまったハンスはそのまま死に至ったという話からきています。この場合夜間のみ人工呼吸器などの呼吸補助装置を使用する必要があります。

 

参考文献:

ウェブサイト:今日の臨床サポート

菅原恵梨子ほか:片側Wallenberg症候群により亜急性期に中枢性低換気をきたした1例, 臨床神経学 2014;54:303-307.