ミニレクチャー No. 19 番外編:経験主義の落とし穴

番外編:経験主義の落とし穴

 

回復期リハ病棟とは直接の関係はありませんが、前回のレクチャーで紹介した岩田先生の本の中から、大切な話をします。

 

医療の世界では、経験をたくさん積むとえらくなる、デキるようになる、という経験主義が横行しています。こんな時にはこうすればよい、みたいなノウハウの蓄積を重んじます。この経験主義の良いところは、何年が経って、たくさんの経験、ノウハウを蓄積すれば、ほとんどの事態に対応することができるようになることです。5年くらいたてば、医師も看護師もリハスタッフも、そつなく臨床をこなせるようになります、とりあえずは。

 

しかし、この経験主義=ノウハウ主義には落とし穴があります。それは、そのノウハウが間違っていた場合、それを修正できないことです。そしてずっと間違え続けることです。医療の世界では、新たな発見があって、数年前まで正しかったことが実は間違い、なんてことは日常茶飯事です。そのことに気づかず、古いノウハウをずっと疑わずに続ける、という事態にハマります。しかし、そのことに本人は気づきません。とりあえず目の前のことに対処できるが故に、ベテランになれば他の人から間違いを指摘されにくくなるために、間違ったノウハウを続けることになります。さらに、経験を積めば積むほど、困ることもなくなるので、勉強をしなくなり、間違いに気づく機会は決定的に失われます。

 

たくさんの経験をすることは大切です。重要なのは、今経験していること、例えば、ある患者さんに行った治療やケアが上手くいったとして、今後、同じような人に出くわしたときにも適応できる普遍的な経験なのか、それとも、そのひとだけにしか適応できない個別的なものなのか、常に考えることです。

 

その判断を的確に行うためには、常に勉強し続けることが必要です。個人の経験だけでは、一般化は不可能です。様々な質の高い教科書や論文などを読み、臨床の経験と照らし合わせることが大切です。他の仲間との経験の共有も有効です。

 

想像してみて下さい。今から20年後、よく勉強している新人が入ってきて、最新の知識に基づいて、古くからのノウハウに疑問をもち、変えて行きたいと思っています。しかし、ベテランと呼ばれるようになっているあなたは古いノウハウを疑わずに仕事をしている。新人は直接あなたに意見することはできず、新人同士で、影であなたの事を「老害」と言っている。なんてことにならないためにも、常に、ずっと、一生、働いている限り、勉強し続け、変わり続ける努力が必要です。

 

参考文献:

岩田 健太郎:HEAT APP! たった5日で臨床の”質問力”が飛躍的に向上する、すごいレクチャー, 金原出版株式会社, 2018.