No. 126 圧損傷(いわゆる褥瘡)について

圧損傷(いわゆる褥瘡)について

 

1961年にKosiakは、わずか70mmHgの圧力でも2時間連続で加わることで、ラットの筋肉に中等度の組織学的変化を生じたことを報告しました(1)。さらに1974年、Dinsdaleはせん断力が加わると血流低下を引き起こすために必要な圧力はさらに少なくてすむようになり、圧障害の発生を助長すると報告しました(2)。1992年から1995年にかけて、保健医療政策研究機関(AHCPR、現在はヘルスケアリサーチアンドクオリティー(AHRQ))が、褥瘡の予防と治療に関する画期的なガイドラインを発表しました。2014年には米国褥瘡諮問委員会(NPUAP)と他の国際機関との協力により、575件のエビデンスに基づいた推奨事項からなる包括的な臨床実践ガイドラインが公開されました。

20164NPUAPは、ステージ1傷害が以前の病期分類システムでは「潰瘍」として記述されていたため、一般的な用語の「圧力潰瘍」を「圧損傷」に置き換えました。「圧損傷」はNPUAPによって以下のように定義されています(3):

 

皮膚の局所的な損傷で、その下の軟部組織の損傷を伴っている場合もあり、多くは骨突出部や医療機器などに関連して起こったもの。損傷は皮膚に傷がない場合も潰瘍が形成されている場合もあり、有痛性のこともありうる。損傷は集中した持続する圧力や、圧力とせん断力の組み合わせの結果生じる。軟部組織の損傷しやすさは、微小環境や栄養状態、循環、合併症、軟部組織の状態に影響される

 

圧損傷はNPUAPガイドラインで以下の様にステージ分類されています:

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その他の圧損傷:

医療機器関連圧損傷この分類は原因に基づいた分類です。検査や治療のために用いる医療機器による圧損傷です。その結果生じる圧損傷は装置の形状に適合するものになります。損傷はステージ分類を使用してステージングする必要があります。

粘膜の圧損傷 粘膜の圧損傷は医療機器の使用歴を持つ粘膜部分に見られる。組織の解剖学的構造のため、これらの傷害をステージ分類することはできません。

 

予防と治療

圧損傷の予防には、適切なシーティング/寝具、適切なポジショニング、圧力を逃がす事に関する教育(例えば、座位時には15-20分ごとに30秒以上の体重シフトを行う、臥床時には2時間毎に体位交換する、など)、適切な皮膚のモニタリングが含まれます。他に取り組むべき課題としては、栄養、組織灌流、酸素化、局所の体温管理、および皮膚のうるおい管理が含まれます。

圧損傷の治療には、圧の除去、他の病因因子の治療、感染症の治療、壊死組織の壊死組織切除(鋭利な、機械的酵素的または自己溶解性)、定期的な創洗浄および適切な創傷被覆材の使用が含まれる。局所的な抗菌薬(例えば、スルファジアジン銀)は、適切なでブリードマンや洗浄でも治癒しない創で助けになるかもしれない。創傷培養物は一般的に有用ではありません。なぜなら、ほとんどの創傷には細菌が定着しているからです。抗菌薬の全身投与は、骨髄炎、蜂窩織炎、または全身感染症が疑われる場合に限られます。

電気刺激、超音波、紫外線、レーザー照射、高圧酸素などは、創傷修復を促進するために臨床応用されています。電気刺激は、急性および慢性創傷治癒の様々な段階において有益な効果を有することが示されている。電気刺激は、感染を減少させ、細胞性免疫を改善し、組織灌流を増加させ、皮膚創傷治癒を促進します(4,5)。超音波はキャビテーションとマイクロストリーミングによって治癒を促進するかもしれません。キャビテーションは、柔らかい組織内の微小なミクロンサイズの泡の生成と振動です。これらの泡による圧力が細胞の変化を引き起こすと考えられています。超音波は同時に、機械的圧力に起因する流体の動きであるマイクロストリーミングを引き起こします。組み合わせた超音波のこれらの特性は、創傷治癒を促進することができる細胞の活性化を生じます(5)。超音波はまた、創傷床をみて評価するためにも使用されます。最近では、様々な周波数および振幅での低強度振動が、大循環および微小循環における血流の改善や創傷治癒を促進する目的で用いられています(5)。

血流の保たれている健全な外科的皮弁を移植することによって、非感染性の深部損傷の治癒を促進することができます、しかし、皮弁は、特に初期の治癒段階の間は圧損傷に対して脆弱です。

 

参考文献

1.Kosiak M. Etiology of decubitus ulcers. Arch Phys Med Rehabil. 1961;42:19–29.

2.Dinsdale SN. Decubitus ulcers: role of pressure and friction in causation. Arch Phys Med Rehabil. 1974;55:147–154.

3.The National Pressure Ulcer Advisory Panel. Stages of a Pressure Ulcer from the National Pressure Ulcer Advisory Panel (NPUAP) announces a change in terminology from pressure ulcer to pressure injury and updates the stages of pressure injury. www.npuap.org

4.Ennis WJ, Lee C, Gellada K, et al. Advanced technologies to improve wound healing: electrical stimulation, vibration therapy, and ultrasound-what is the evidence? Plast Reconstr Surg. 2016;138(3 Suppl):94S–104S.

5.Ud-Din S, Bayat A. Electrical stimulation and cutaneous wound healing: a review of clinical evidence. Healthcare (Basel). 2014;2(4):445–467.

No. 125 自動車運転再開について

自動車運転再開について

脳卒中やその他の病気になっても回復期リハ病棟退院後には自動車運転を再開したいと希望される患者さんが少なからずいます。退院後の生活の質に大きく影響することもありますので、可能ならば再開できるように支援したいですが、もしも事故を引き起こす可能性があるなら、自動車運転を制限することが必要になるかもしれません。以前よりこのトピックについては議論されてきています。今現在の法律での規定や、研究成果などについてまとめました。

1.法的基準

免許取得後に障害を生じた場合は、運転免許センターで運転適性相談・検査を受ける必要があります。

1)普通自動車免許取得に必要な身体機能

  • 視力:両眼で0.7以上で、かつ一眼で0.3以上であり、一眼の視力が0.3に満たないもの、または一眼が見えない場合は、他眼の視野が左右150度以上で視力が0.7以上であること
  • 色彩識別能力:赤色、青色及び黄色の識別ができること。たとえ赤色が褐色に見えても、前記三原色の識別ができればよい
  • 聴力:両耳の聴力(補聴器使用可)が10mの距離で90dBの警音器の音が聞こえること。しかしこの音が聞こえない場合でも適切な教育を受け、かつワイドミラーを使用している場合は普通自動車免許に限り交付される
  • 運動機能:運転に支障を及ぼすおそれのある四肢または体幹の障害がない(補助手段の使用可)こと
  • 認知機能:安全な運転に必要な認知、予測、判断または操作のいずれかに係る能力を欠いていないこと

認知症について

アルツハイマー認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症レビー小体型認知症に罹患している人は自動車運転免許の取得はできません。診断されれば免許は拒否・取り消しとなります。その他の認知症(甲状腺機能低下症、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、頭部外傷後)では、医師の診断書を踏まえて6ヶ月を超えない範囲で免許の効力を停止することができます。軽度の認知機能低下があり将来認知症になるおそれがある場合は、6ヶ月後に再度臨時適性検査が行われます。

 

2)免許の拒否又は保留の事由となる病気

統合失調症てんかん、再発性失神、無自覚性の低血糖躁うつ病、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害、その他の精神障害脳卒中認知症アルコール中毒

上記に該当すれば、それぞれの運用基準に従い疾患ごとの診断書作成が求められます。

2.包括的評価

  1. 運転関連情報の収集:病歴、診断根拠、予後、服薬、運転歴、車種および運転の目的、中止による影響
  2. 実車前評価:遂行、注意・集中力、情報処理速度、判断、社会的行動(内省・衝動性)、視覚性ワーキングメモリーなどを評価
  3. 実車運転・路上運転評価:発進・停止、合図、安全確認、走行位置感覚、走行速度(高齢者運転教習に準じた評価)

*結果の解釈には病前からの癖か障害によるものかの鑑別が重要です。

3.身体機能評価

  1. 医学的管理が出来ている:糖尿病(特に低血糖による意識消失)、高血圧、不整脈睡眠障害
  2. 麻痺側上肢は廃用手レベルでも可
  3. 下肢の麻痺はBrunnstrom stage III以上で、歩行可能(装具使用可)
  4. 右下肢クローヌスが著明な場合は安全なペダル操作ができるよう調整するか、左下肢によるペダル操作ができる自動車改造が必要
  5. ADLはFIMで歩行および全認知項目が6以上
  6. 突発時に状況説明ができる程度の言語機能
  7. 視野欠損がない:皮質下出血患者の場合は下1/4盲を合併していることがあり、視野障害者では事故率は2倍との報告があります。*法律的には一部視野欠損を認めも運転を禁止することはできません

4.高次脳機能評価

1)運転に関わる高次脳機能

Lv1 計画・判断にかかわる方略的段階:目的地と最善の経路、時間の選定、危険の予測と回避→遂行機能(計画と実行)、自己の能力の認識

Lv2 安全性にかかわる戦略段階:他の車との車間距離の維持、スピード調節、人や障害物の回避→注意機能、遂行機能、視覚走査能力、時間推定能力、視空間認知機能、視覚・運動変換能力、情報処理速度、情動の制御

Lv3 基本的な運転技術にかかわる操作機能段階:ブレーキ・アクセル・ハンドルを操作し、一定のスピードを維持し走行レーンを運転操作する→注意機能、運動感覚機能、走査知識、視覚・運動変換能力

2)注意障害

注意障害は脳卒中後の高次脳機能障害でもっとも多いです。視覚性注意機能を測定する目的でTMT(Trail Making Test)-Part A・Bが使用され、多くの研究報告でTMTの検査結果と自動車運転能力が関連していると報告されています。重度の注意障害患者では、病識が欠如していることも多く、家族を含めて自動車運転に伴う危険性を説明する必要があります。

3)知的能力

知的能力は、Mini-Mental State Examination や、改訂長谷川式簡易知能評価スケールなどで評価します。しかし、現在どの程度知的能力が保たれていれば自動車運転再開可能かはっきりとしていません。しかし明らかに知的低下が疑われる患者には運転を控えるように説明する必要があると思います。

4)半側空間失認

半側空間失認を認めた場合は安全な運転は困難です。Behavioural Inattention Test:行動性無視検査(通常検査は146点、行動検査は81点が満点)を行い、自動車運転再開には通常検査がほぼ満点である必要があります。

5)失語症

道路標識や交通規則を理解できることは当然必要です。そのうえで、交通事故などのアクシデントが生じたときに、状況説明ができる程度のコミュニケーション能力も必要です。

6)運転中止の基準値

以下の必須検査で複数の項目に該当する場合は運転中止を勧めます

必須検査:

TMT-A>132秒、TMT-B>177秒

Reyの図模写<32点

BIT通常検査<132点

HDS-R<20点

リバミード記憶検査<16点

コースIQ<80

かなひろいテスト ヒット数<80%

 

参考検査:

WAIS一III(ウェクスラー成人知能検査) 動作性IQ<80

WMS-R(ウェクスラー記憶検査改訂版) 各検査<80

BADS(behavioural assessment of the dysexecutive syndrome)<80点

 

*障害部位と高次脳機能

両側前頭葉:注意機能、遂行機能、展望記憶(予定を記憶し適切な時期に思い起こす能力)、ワーキングメモリ、病識、感情のコントロール

頭頂葉:視空間認知

頭頂葉:操作手順

7)運転が可能な高次脳機能障害者の安全運転のための配慮

ルートの選択:あらかじめルートを確認する、ルートはシンプルに

体調の確認:運転前に確認

注意の維持:運転中は話をしない、ラジオも聞かない(二重課題は×)

速度の調整:速度は上げない

 

5.てんかん発作について

脳腫瘍やくも膜下出血、頭部外傷、皮質下出血、皮質を含む脳梗塞では、てんかんを生じる危険性が高くなります。

1) 脳卒中

脳卒中全体では痙攣を生じる頻度は5~20%、急性期脳卒中での入院例の8.9%に痙攣発作が出現します。脳出血のほうが脳梗塞よりも痙攣発作を生じやすいです。

*痙攣発作を生じやすい脳損傷部位

2) 頭部外傷

てんかん薬を予防投与しても急性硬膜下血腫、外傷性脳内血腫、脳挫傷ではてんかんを生じやすいです。受傷時の意識レベルがGCSで8点以下の重度頭部外傷例では前頭葉、側頭葉を中心として大脳皮質に強い衝撃が加わっていることが多く、痙攣発作の焦点になりやすく15~35%で生じます。外傷後2年間に、生涯発生するてんかんの80%が出現し以後頻度は減少します。外傷性てんかんは一般に予後が良く5年間で50%が寛解しますが一部は難治性てんかんに移行します。

3) 運転再開の許可

*診断書の選択肢は以下のどれかになります。

  • 発作が過去5年以内になく、今後発作が起こる恐れがない
  • 発作が過去2年以内になく、今後しばらく(適宜期間を記入)は発作が起こる恐れがない
  • 医師による1年間の経過観察の後、発作が意識障害や運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後症状悪化の恐れがない
  • 医師による2年間の経過観察の後、発作が睡眠中に限られ今後症状の悪化の恐れがない

症候性てんかんと診断され抗てんかん薬が開始されている場合は、少なくとも2年間は運転再開を許可できません。また痙攣発作を生じる危険性が高い皮質下出血患者の場合は、痙攣発作の既往がなく、抗てんかん薬の投与がなくても、脳出血発症後少なくとも2年間は運転を控えるべきです。脳実質内のラクナ梗塞や小さな出血、テント下の出血や梗塞では、痙攣発作発症の危険性は低いため、回復期病棟退院時など比較的早期の運転再開も可能です。しかし脳幹部梗塞でも痙攣発作を生じたとの報告もあります。

6.参考文献

  • 前岡恵美:運転に必要な身体機能・高次脳機能とその評価法. Jn of CLN REHA. 23(9):890-895, 2014.
  • 武原 格:特集/症候性てんかんと自動車運転一最新の道路交通法改正も踏まえて一リハビリテーション医療の現場での自動車運転許可の現状. MB Med Reha 184:20-26, 2015.
  • 武原 格:脳卒中患者の自動車運転再開. Modern Physician 34(7) : 844-846, 2014.
  • 川北 慎一郎:疾患別の運転再開とその対応 2)脳卒中. Jn of CLN REHA 23(12), 1212-1217, 2014.
  • 武原格:脳卒中後の自動車運転再開の手引き. 医歯薬出版, 2017.

No. 124 リハビリテーションにおける超音波

リハビリテーションにおける超音波

 

INTRODUCTION

超音波は人間の可聴域の20KHzを超える音です。近年、画像検査としての超音波の使用は、筋骨格系および末梢神経系障害の評価に不可欠となっています。従来の画像技術と比較すると超音波は、その場ですぐに行え、しかも低コストで、より安全なうえに、リアルタイムに結果が分かり、目的とした構造とその周辺の筋骨格系や血流や注射された薬液まで確認できます。筋骨格系画像検査で使用する場合、真の禁忌はありません。

ただし超音波検査にも欠点があり、音響インピーダンスのために骨などの組織は評価することができません。骨の下や骨に包まれた中をみることは不可能です。さらに検査の質は操作者に大きく依存し、超音波画像の解釈やアーチファクトについての知識と訓練が必要です。

超音波は放射線を利用しないため、優れた安全性を有しますが、超音波でも不適切に使用すると有害です。超音波は体温を上昇させ、体液中に空洞現象を生じさせる可能性があります。なお長期的な影響はまだ分かっていません。したがって超音波を利用する際には無駄に強い出力で用いないという原則を守ることが大切です。

 

MACHINE BASICS

超音波装置は2~15MHzの超音波を送受信して、2次元画像を生成します。超音波装置の主な構成要素は、CPU、トランスデューサ、ディスプレイです。CPUはトランスデューサプローブに電流を流し振動させます。この振動が皮膚上のゲルを通って組織の内部に伝わる音波を生成します。音波は組織の境界面と相互作用してトランスデューサに反射され、CPUが画像に変換します。輝度モード(Bモード)は一般に筋骨格系超音波で使用される白黒2D画像モードです。トランスデューサの周波数が高いほど分解能は高くなります。より表面の構造をみるのに適しています。より低い周波数はより深い構造に浸透しますが分解能は低くなります。筋骨格系で使用されるトランスデューサプローブのタイプは、平均周波数範囲が49MHz(低周波数)のコンベックス型、5-12MHzの平均周波数範囲を有するリニア型、平均周波数範囲が7-15MHz(より高い周波数)のコンパクトなリニア型です。音波の他の要素には速度と振幅があります。音波がトランスデューサに戻る速度は、位置すなわちスクリーン上の画像の深さを決定します。音波の強さは振幅であり、スクリーン上の画像の明るさを決定します。超音波画像の質は、大部分がトランスデューサに反射されるエネルギーの量に依存します。音響インピーダンス、散乱、屈折および減衰は、トランスデューサに戻る音波信号に影響を与えます。反射は音波が2つの隣接する構造または組織の境界面に当たるときに生じます。組織間の音響インピーダンス(音波が組織を通過する際の抵抗の量)が大きければ大きいほど、反射されるエネルギーは大きくなり、画像はより明るくなります。散乱は最初に送信されたエネルギーの一部のみがトランスデューサに戻り、残りが異なる方向に再送信されたときに発生します。屈折は音波が音響インピーダンスのために元の方向からずれると起こります。減衰は音の熱への変換であり、変換器に反射されず、画像は暗く表示されます。

 

調整:超音波装置のさまざまな項目を操作して画像を最適化します。

ゲインこのノブはプローブに戻る超音波信号の全体的な振幅を変更することにより画像の明るさを制御します。ゲインを大きくすると振幅が大きくなり、明るい画像が得られます。

デプスこのノブはフィールドビューの奥行きを調整します。デプスが大きければ大きいほど、解像度は低くなります。

周波数このノブはトランスデューサのプローブ周波数を変更して、深さと解像度のバランスをとります。より低い周波数はより深い構造に浸透しますが分解能は低くなります。

フォーカスこのノブの無い装置もありますが、超音波の焦点を関心領域に合わせます。最新の機械は、画面の中央に常にフォーカスさせることができます。

 

Ultrasound NOMENCLATURE AND COMMON ARTIFACTS

筋骨格系超音波ではスキャンの方向を表すさまざまな用語が使用されます。縦軸(長軸)は矢状面を意味します。横軸(短軸)は断面図を意味します。

エコーの信号強度はトランスデューサによって送信される音波の反射を反映しています。「無エコー」は超音波で黒く見える部分のことです。「低エコー」は他の構造よりも暗いエコーを生成する場所のことです。「高エコー」は他の構造よりも明るく見える強いエコーを生成する場所のことです。均質構造はその組成が均一なエコーパターンであることを指します。異種構造は様々な強度のエコーの不均一なパターンであることを指します。等吸収性は、別の(例えば、周囲の)組織と同じ強度のエコーを生成する場所を表します。

アーチファクトは筋骨格系超音波によく見られ、誤診を防ぐためによく理解しておく必要があります。例をいくつか挙げます:

異方性著名な反射の変化を引き起こす組織の特性のこと。音波の方向のわずかな変化が、いくつかの組織では反射される音波の劇的な変化をもたらし画像に大きな影響を与えることがあります。

シャドーイング超音波が物体に当たったり通過したりする際の超音波の部分的または全反射、もしくは吸収で、深い部分が低エコーまたは無エコーに見えること。

エンハンスメントシャドーイングとは反対に音を簡単に伝える構造よりも深い部分で輝度が増加すること。一般に、より深い部分では、自然に減少する音波を補うために、エンハンス処理が自動で行われます。しかし、液体が充満した嚢胞のような構造では、エコーのエネルギーはわずかしか吸収されないのに、深さに応じて自動的にエンハンス処理がされるため、嚢胞より深部の構造は高エコーに表示されます。この現象は「後方エコー増強」とも呼ばれます。

残像エコー超音波が互いに平行で超音波に垂直な高反射面に当たるときに発生する現象です。初期反射は、その適切な深さで解剖学的構造(または針)として現れますが、シグナルの一部が、トランスデューサに戻る前に表面の間に捕捉されて戻ります、1回の反射後に波がトランスデューサに戻ると仮定しているので、これらの追加反射(戻り時間が長くなる)は、CPUが元の構造よりも深い別の構造であると解釈し、残像エコーが生じます。この現象は、針の長軸がトランスデューサと平行であるときに見られます。

 

NORMAL TISSUE TYPES

皮膚は薄く均一な高エコー層として表示されます。脂肪は低エコーであり結合組織の存在を示しています。血管は、管状の構造を有する無エコーです。静脈はトランスデューサからの圧力で潰れますが、動脈は容易に潰れません。

滑膜は一般に低エコーです。硝子軟骨は低エコーから無エコーに見え、高エコーにうつる骨質皮質に覆われています。靭帯は高エコーで均質な帯状です。腱は縦方向の視野では高密度で線維状の高エコーで、横断像では低エコーになります。腱は高度の異方性があるために、異方性に起因する非特異的な低エコーを腱炎や腱裂傷などと謝って診断することがあります。一方、異方性は深部脂肪などの他の周囲の高エコー組織から腱組織を区別するのに役立てることもできます。

筋肉は、長軸方向の視野では、薄い高エコーの筋膜を有する低エコーの不規則な線条の組織として表示されます。横方向の視野では、高エコーの斑点を伴う低エコーの塊として表示されます。筋肉組織は異方性があります。

神経は、縦視野では幹線状の「鉄道線路」パターンを有し、横視野では高エコーの神経上膜と高エコーの束による「蜂の巣状」の外観を示します。神経は腱よりも異方性があり一般に腱と比較して低エコーです。

骨は明るいエコー線としてみえ、それより奥は(アコースティック・シャドーのために)見えません。

 

DIAGNOSTIC APPLICATIONS

骨および関節の障害において、超音波は関節浸出液の検出に優れています。無エコーで形の変化する像で表示されます。異種性の液体は感染症の指標となり、吸引の必要があるかもしれません。滑膜炎は関節内の非圧縮性のエコー源性組織としてみられます。浸潤や痛風結節も超音波で見ることができます。炎症性膿疱は、単純な無エコー状または複雑な異種状に写ります。

神経傷害では罹患した神経は部分的に腫脹し低エコーで典型的な被膜パターンの喪失を示します。

腱損傷では腱炎は腱が拡大してみえ低エコーです。部分的な裂傷は、正常な線維状構造の喪失を伴う無エコー領域があります。高度の裂傷では腱が細くみえます。全層の裂傷は腱に隙間がみえます。腱鞘炎は、腱を取り囲む形の変化する無エコーとして、または混合エコー状の液体としてみられることがあります。

筋傷害では、軽度の筋損傷ではエコーテクスチャーの減少を伴った低エコー領域として示され、患部はまるで「洗い流された」ように見えます。高度の傷害は線維の崩壊および異質の液体状にみえます。

 

THERAPEUTIC APPLICATIONS

筋骨格系のイメージングモダリティとしての超音波は、主に吸引や注射のために関節へ針を誘導するために使用されます。臨床で実践する際には、複数のアプローチとばらつきがあることをに注意します。一般的に対象とされているいくつかの関節に対するいくつかの基本的アプローチを以下に示します:

肩関節患者は座位か側臥位。患者の手は反対側の肩に置き、上腕骨頭、関節唇、および関節包を含む重要なランドマークを同定します。肩関節は後方アプローチが適しています。針は上腕骨の後面と後唇との間を目標に、水平面において外から内へ刺入します。

肘関節患者は、肘を曲げて胸の上に置き、座位または仰臥位になります。プローブは肘の後方にから矢状方向にあてます。針は三頭筋腱を通過し、後部脂肪パッドを通って関節空に入るように上方から刺入します。重要なランドマークは、肘頭窩、後部脂肪パッド、および肘頭です。

股関節患者は仰臥位で、前外側からアクセスします。 プローブは、大腿骨頚部の長軸に沿ってあてて、大腿骨頭と頸部との間の特徴的な移行部を同定します。針は、下方から刺入し、大腿骨頚部近傍で神経血管束の外側から関節包内に入ります。痩せた患者では、超音波プローブは軸方向に向けることができ、大腿骨頭と寛骨臼を視野に入れて、針を前外側から刺入します。

膝関節滲出液を伴う膝関節の場合、最適なアクセス方法は、典型的には仰臥位で膝をわずかに曲げた状態です。 プローブは、四頭筋腱に平行に保持され、四頭筋線維が見えないところまで、内側または外側に動かします。針は直接的に滑液包に刺入します。滲出のない膝関節の場合、内側の膝蓋大腿領域が潜在的なアクセスポイントになります。プローブは、最初は膝蓋骨および大腿骨内側顆の軸方向平面に配向され、次いで90°回転され、関節ラインに沿って配向します。そして針をプローブの下側または上側から刺入します。

足関節患者を仰臥位にして、距腿関節は矢状面でみることができます。検査者は、脛骨に対する距骨の動きを識別するために、足関節の底背屈をさせます。足背動脈および伸筋腱を同定し、それを避けて針は下側から矢状面の関節に刺入します。

 

From Matthew Shatter, Howard Choi : PHYSICAL MEDICINE AND REHABILITATION POCKETPEDIA 3rd ed

 

No. 122 原発性アルドステロン症

原発性アルドステロン症

原発性アルドステロン症とは、副腎からアルドステロンというホルモンが勝手に過剰に作られ、その作用で高血圧などの症状が生じる疾患です。高血圧の約5~10%の原因になっています。また治療してもなかなか治らない高血圧(治療抵抗性の高血圧)の20%にはよくよく調べると原発性アルドステロン症が見つかります。診断されれば治癒可能な高血圧なので、診断がきわめて重要です。

特徴は、比較的若い時から始まる中等症以上の高血圧で、治療抵抗性であり、低カリウム血症を伴います。そして、副腎に腫瘍がみつかることがあります。さらに40歳以下の脳血管障害の既往があることがあります。

 

診断は、高血圧の人、特に上記の特徴のある人は血漿アルドステロン濃度、血漿レニン活性比を測定しスクリーニングを行うことが望ましいです。低カリウム血症は有名な所見ですが頻度は約25%であり、低カリウム血症がないからといって否定はできません。スクリーニングで引っかかった患者さんは、専門医を受診し確定診断のための検査を受けます。原因の大部分は片側性のアルドステロン産生腺腫と両側性の特発性副腎過形成ですので、副腎CT検査を施行し副腎の腫瘍や過形成の有無を検査します。

 

確定診断後の薬物治療は、抗アルドステロン薬(スピロノラクトン、エプレレノン)を用います。低カリウム血症に対してはカリウム製剤補充で対応します。スピロノラクトン(25~50mg/日)を用いると、降圧薬の使用が0.5剤(平均2.3→1.8)、収縮期血圧-15mmHg(平均161→146)、拡張期血圧-8mmHg(平均91→83)の減少を認め、48%の症例が血圧140/90mmHg未満にコントロールできたとの報告があります。

 

また片側の副腎にできた腫瘍がアルドステロンを過剰に産生している場合は手術でその腫瘍を摘出することも可能です。その場合は選択的副腎静脈サンプリングを施行してアルドステロン過剰産生部位が片側性か両側性を決定し、片側の副腎病変によるアルドステロン過剰産生と診断されれば、腹腔鏡下内視鏡的副腎摘出術が行われます。

 

なお低カリウム血症になると、筋力低下が引き起こされます。症例報告レベルでは、低カリウム血症が誘因となって人工呼吸器が必要なほどの四肢麻痺を引き起こし、カリウム補正を行ったところ麻痺が回復した、という報告があります。

 

Medha M, et al : An Unusual Presentation of Hypokalemia, J Anesth Clan Res 5:389, 2014.

 

はじめギラン・バレー症候群と思われていた弛緩性麻痺患者さんが、低カリウム血症があり、カリウム値の補正後に麻痺が改善しはじめた、というものです。他にも似たような症例が2、3例報告されているそうです。

 

回復期リハ病棟には、本当に色々な疾患をもった患者さんが入院してきます。

No. 122 バランストレーニングが記憶力や空間認知能力を改善する

バランストレーニングが記憶力や空間認知能力を改善する

 

Rogge, AK, et al. Balance Training Improves Memory and Spatial Cognition in Healthy Adults. Scientific Reports 7, no. 1 (Dec 2017). https://doi.org/10.1038/s41598-017-06071-9.

 

運動が認知機能を改善することはよく知られています。しかし、どの様な種類の運動が認知機能に影響を及ぼすかについては、はっきりわかっていません。この研究では、バランス能力を必要とするトレーニングは、記憶力や空間認知能力を改善するのではないか、という仮説について検証しています。

40人の1965歳の健常な参加者をランダムにバランストレーニングとリラクゼーショントレーニングに割り振りました。それぞれのグループは1週間に2回のトレーニングを合計12週行いました。トレーニング前後でバランス能力、心肺機能、記憶力、空間認知能力、遂行機能を評価しました。

すると、当たり前ですがバランスグループのみが有意にバランス能力が改善し、心肺機能は両グループともに変わりませんでした。さらにバランスグループでは、有意に記憶力と空間認知能力が改善していました。ちなみに遂行機能への影響はみられませんでした。

この結果から、バランストレーニングは特に記憶力と空間認知力を改善する効果があると考えられます。従って、心肺機能の改善は必ずしも認知機能の改善のための運動において必要な要素ではないと考えられます。バランストレーニング中の前庭系への刺激が、前庭系から海馬や頭頂葉への直接的な神経回路を介して、その領域に変化をもたらすと推測されています。

 

 

神経可塑性と認知機能を高める方法を開発することは、急速に進歩する技術や高齢化社会に照らして、心理学者にとって大きな研究上の関心事となっています。認知訓練プログラムや特定の栄養療法など様々な行動介入の中で、運動プログラムが認知機能を改善することが示唆されています。数ヶ月にわたる運動は、遂行機能、処理速度、および記憶を含む認知能力を改善することが示されています。さらに、有酸素運動は海馬および前頭葉灰白質の体積減少を遅らせることが分かっています。そのため、運動が認知機能に及ぼす影響を調査した研究の多くは、ランニング、ウォーキング、サイクリングなどの有酸素運動に焦点を当てていました。しかし、高齢者における有酸素運動の認知機能への影響を検証した最新のメタアナリシスによると、心肺機能の向上と認知機能の改善の間に因果関係があるという明確なエビデンスは無いと結論付けられています。つまり、有酸素運動による心肺機能の改善は、運動による認知機能改善の複数の要素のひとつに過ぎないのかもしれないのです。この仮説は、他の種類の運動が認知機能改善に有効であったという最近の報告によっても支持されています。例えば、協調動作やダンスを取り入れたランダム化介入試験では、記憶力、選択的注意、遂行機能、空間認知において、対照群よりも良好な結果が得られました。

有酸素運動無酸素運動かに関わらず、身体運動は前庭系や神経筋そして固有感覚系のシステムに対する刺激を提供します。身体の動きやバランスの認識は、固有感覚や視覚系からのシグナルと関連しながら、前庭系で慣性の動きが感知される事でコード化されます。前庭神経核と小脳や海馬そして前頭前野頭頂葉皮質との連絡経路によって、空間認知や方向感覚そして記憶などの、認知機能に関する情報がやりとりされます。例えば、両側の前庭の損傷があると、空間記憶課題の成績が低下し、海馬は萎縮し、辺縁系視床の白質路における異方性の減少が起こることがわかっています。

運動中の前庭系の刺激の増加は、身体運動と認知機能との間の必須の調節因子であると推測されています。動物研究では、バランス能力の改善がニューロンのより高い生存率をもたらし、海馬および前頭前野の体積を増加させることが示されています。ヒトでは、バランス能力は、海馬、基底核、前頭部および頭頂部の脳領域の増加と関連しています。しかし、認知機能、特に記憶および空間認知に関連するバランストレーニングの効果に関するデータはこれまでのところあまりありません。若年成人を対象とした最近の研究では1ヶ月間のバランストレーニング後に空間オリエンテーション課題の改善が見られました。

本研究の目的は、前庭系への要求が高い運動プログラムが、特に記憶および空間認知を改善するという仮説を検証することです。この目的のために、我々は、リラクゼーショントレーニングと比較して、健康な成人で要求の厳しいバランストレーニングプログラムを実施しました。どちらの訓練タイプも心肺機能には影響を与えないと考えられます。記憶、空間認知および遂行機能を、12週間の訓練プログラムの前後で評価しました。

 

Methods
Participants.
広告で募集したハンブルグ市(ドイツ)在住の健常成人70人が参加しました。参加者は1865才で、最近5年間は月に5回以上の運動をしておらず、バランストレーニングやリラクゼーショントレーニングの豊富な経験のない人です。視力聴力に問題はありません。除外基準は未治療の心疾患、未治療の呼吸器疾患、神経学的もしくは精神的疾患、急性期の筋骨格系疾患や関節の変性疾患がある場合です。さらに参加者はスポーツ健康診断を受けました。

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Design. 参加者は年齢、性別、教育歴に基づいてペアに分類されました。各ペアをバランスグループまたはリラクゼーショングループにランダムに割り当てました。各参加者は、介入の前後に3回のテストを受けました。テスト内容には、バランステスト、心臓機能検査、認知テストが含まれ、同時に身体活動精神病理学的症状に関するアンケートが行われました。すべての評価者は、参加者のグループ割り当てに関して盲検され、参加者は検証仮説に関する詳しい説明はなされていません。

Intervention. 参加者は10-12人の集団で1週間に212週間トレーニングを行いました。各セッションは150分です。 両方のトレーニンググループが同じプロのトレーナーから指導を受けました。各参加者は24回のトレーニングセッションに参加予定でした。トレーニングは合計13週間行われ、参加者は逃したトレーニングセッションに追いつくことができました。すべての参加者は、介入期間を通して身体活動習慣のレベルを変えないように勧められました。

Balance training. 参加者は、片脚または両脚のいずれかで、さまざまな接地面上でバランスサーキットトレーニングを実施しました。セッションごとに8つの異なるバランスステーションを完了しなければならず、それぞれ5分間行われます。課題は反応的な姿勢調整を誘発し、参加者にバランスを保ち続けさせるように設計されています。例えば、ある課題は片脚でバランスを保ちながら、腰の周りに巻いた強力な弾性ストラップで常に一方の側に引っ張られる、というものです。ステーションの半分では、タンデムで動くことを要求されます。例えば、参加者はウォーブルボードに立って、メディシンボールをパートナーに投げ、バランスを維持します。エクササイズは参加者のスキルレベルに応じて微調整します。調整はバランス要素の難度を組み合わせて行われます。例えば、ストラップ張力の変化、相手までの距離を伸ばすこと、または柔らかい表面上の一方の脚に立って目を閉じることなどで行われます。参加者は課題に対する戦略を事細かに教えられることはありません。トレーニングに持続的に興味関心をもって十分に取り組むために、6週間後にはエクササイズを新しいセットに置き換えました 。

Relaxation training. ラクゼーショングループは、2つのよく知られたリラクゼーション技法、すなわち漸進的筋弛緩法および自律訓練法を実施しました。参加者はマットに寝そべったり、座ったりして、一部の筋の緊張を積極的に増減させる(漸進的筋弛緩法)か、呼吸のリズムや深さに集中する(自律訓練法)ことにより、リラクゼーションアプローチを実践するよう指示されました。トレーニング期間の最初の半分では、漸進的筋弛緩法が教示され、6週間後に自律訓練法が導入され参加者のモチベーションと注意力を維持しました。 

Assessments. Physical assessments.

バランス:介入前後の動的、機能的および静的バランスを評価するために3つの異なる方法を用いました。

(1)動的バランスはスタビリティプラットフォームで評価しました。参加者は両側に最大15°水平方向に傾く台の上に素足で立ちます。そしてプラットフォームを30秒間水平姿勢に保つように求められます。転倒予防に手すりが用意されていましたが、試行中は手を腰に置いたままにします。1分の練習の後、30秒間の休憩をとりながら、各条件(開眼と閉眼条件)につき3回の試行を行いました。テストのスコアはプラットフォームが水平位置(±3°)にある平均時間として計算されました。

(2)機能的バランスを測定するために、バランスエラースコアリングシステム(BESS)を使用しました。参加者は裸足で目を閉じた状態で以下の3つの姿勢で検査を受けました:両脚立位(足を平行にして立つ)、片脚(非利き足)、セミタンデム(非利き足を利き足の後ろにして踵とつま先をくっつける)。すべての試行中、参加者は手を腰に置いて、できるだけ動かないで立つように指示されました。地面は堅固な表面と中密度の発泡体の10cm厚の平らなクッションのふたつです。BESSプロトコルに従い、各姿勢を各地面で2回ずつテストしました。各試験は20秒間です。参加者はビデオ録画され、2人の熟練した観察者が独立して標準化された評価尺度を用いてエラーを記録しました。エラーカテゴリには、目を開いたり、腰を離したり、踏んだり、つまずいたり、転倒したり、前足やかかとを持ち上げたり、股関節を30度以上外転したり、5秒以内に元の姿勢に戻れない、などが含まれます。

(3)姿勢の揺れ速度を評価するためにフォースプレートを使用しました。両脚、片脚、およびタンデムの姿勢時の圧中心(CoP)のデータを収集しました。各姿勢は、目を閉じて3回、目を開けて3回施行しました。眼の開閉状態の順序は参加者間で無作為化されています。試行はそれぞれ30秒間です。各試行の最後の20秒を分析に使用して、初期運動バイアスを回避しました。CoPの揺れ速度は、内側-外側および前方-後方CoP変位の累積を試行時間で割ることによって算出しました。全体のCoPスコアは、姿勢、条件および揺動軸(内側-外側、前方-後方)ごとの3つの試行の平均として計算しました。片脚は参加者のほとんどにとって難しかったので、両脚とタンデムだけをメインスコアにしました。

 

Cardiorespiratory fitness: 心肺機能はエルゴスパイロメトリーによって評価しました。参加者は初期負荷50ワットでサイクル・エルゴメータを開始し、抵抗が徐々に増加し毎分50/3ワット増え、参加者が主観的に知覚する最大限の疲労に達するまで続けられました。エルゴスパイロメトリー中に、酸素摂取量、心拍数、乳酸値および血圧をモニターしました。心肺機能は、疲労時の最大酸素摂取量(ml /分)を体重で除したものVO2peak(ml // kg)として定義しました。

 

Cognitive assessment.

記憶:聴覚的言語対の関連学習タスクを用いて記憶を評価しました。20ポーランド-ドイツ語の単語対(10の名詞と10の動詞)がスピーカーを介して提示されました。刺激はブロック間で30秒の遅延で3回提示されました。語彙ペアの順序は、各ブロック内でランダムに提示されました。学習の後、ポーランド語のみがランダムな順序で提示され、参加者には対になるドイツ語を書いてもらいました。正確に想起された単語の数を記憶スコアとして使用しました。2つの類似したテストを用意し、参加者は、事前テストで2つのテストバージョンのいずれかにランダムに割り当てられ、テスト後にもう一方のバージョンを受けました。バランスグループの一人の参加者がポーランド語の知識を持っていたので記憶テストから除外されました。

 

空間認知テスト: 

(1)Orienting and Perspective Taking Test (OPT)。この筆記試験は異なる視点からのシーンを想像する能力を評価するものです。参加者には7つのオブジェクトが描かれた画像が提示されます。 課題は、あるオブジェクトの位置から、別のオブジェクトに相対していた時に、3つ目のオブジェクトの角度を推定して記載します。一つの検査で12の項目があり、制限時間は5分です。正しい解から参加者の推定値を引くことで誤差を求め、項目ごとの平均誤差スコアが各参加者について算出されました。 

(2)Figure orientation。このテストは筆記試験です。参加者には20個のアイテムのセットが与えられ、それぞれは異なる形状に切断されていました。その目的は、その作品を頭の中で組み合わせた時に出来上がる5つの形を見つけることです。制限時間は7分です。2つのバージョンの試験が用意され、参加者は、事前テストでランダムにどちらかに割り当てられ、事後テスト時にもう一方のバージョンを受けました。 7分間の試験時間内での正答数を従属変数として使用しました。
(3)Mirror images。これはWilde Intelligence Test(WIT)のサブ項目です。5つの同一であるが様々な方向に回転した状態の無意味な図形が提示され、その内の1つは同じ形の鏡像になっています。参加者は鏡像のもとになった図を見つけます。参加者には、3分の時間制限で20回の試行を行います。2つの類似したバージョンを用意して、参加者は、事前テストでランダムにどちらか一方に割り当てられ、事後テスト時にもう一方のバージョンを受けました。3分の試験時間内に正答した項目の数を従属変数として使用しました。

さらなる分析のために、上記3つの試験結果をひとつのスコアに統合して標準化し、各参加者の空間認知スコアと定義しました。

 

遂行機能:コンピュータで行うストループテストを遂行機能の評価として用いた。色(赤、黄、青、緑)を表す単語が、きちんと一致して表示されるかまたは文字の意味と文字色が一致しない状態でスクリーンに表示されます。少し遅れて(SOA = 300ms)、2番目の色を表す単語がすぐ下にグレーのフォントで表示されます。参加者は、上の単語のフォント色が、灰色のフォントで書かれた色の意味と一致するかどうかを判断し、2つのボタンのうちの1つをできるだけ速く押します(yes = 左、no = 右)。 この2つの文字は1000ミリ秒間だけ提示され、次に黒い画面になります。さらに、カラーで印刷された色を表さない形容詞(すなわち「空」「高」など)が対照条件として表示されました。条件ごとに48回の試行(不一致、一致、対照)が無作為の順序で提示されました。誤った試行および反応時間が200msより短いもの、および条件あたりの群平均より3SD高い試行は排除されました。推論スコアは不一致条件の平均反応時間から一致条件の平均反応時間を引いたものとして定義されました。

参加者は20回までは、試行ごとに即時フィードバックが提示されました。メインのテストの間はフィードバックは与えられませんでした。 3人の参加者がストループテストを完了しませんでした。2人は色盲のため、1人はドイツ語以外の話者でした。

追加の評価:参加者の語彙、身体活動精神病理学的症状をアンケートで評価しました。これらの評価により認知機能や介入による変化に与える潜在的な影響を制御することができました。

ドイツ語の「Mehrfachwahl-Wortschatztest」を知性を評価するために使用しました。このテストは、教育的背景に敏感で、健康な成人のグローバルIQと相関しています。

身体活動に関するフライブルグアンケート」を使用して、介入前および3ヶ月後の身体活動を評価しました。アンケートには、階段を降りたり、歩くなどの日常的な身体活動、余暇やスポーツ活動などが含まれます。週当たりの総活動時間はさらに、身体活動に関連する総エネルギー消費を推定するためにMETに変換しました。

Symptom Checklist-90-R(SCL 90R)を用いて自己診断した精神病理学的症状を評価しました。9つの下位尺度で90項目の心理測定質問票は、広範囲の心理的な緊張と精神病理を評価することを目的としています。すべての下位尺度に基づくグローバルスコア(Global Severity IndexGSI)を使用して参加者の精神病理学的症状を群間で比較し、介入後の変化のうむを検証しました。

 

Results 

バランスとリラクゼーショングループの参加者は、年齢、性別、語彙スコア、心肺機能、自己報告された身体活動、および精神病理学的症状に関して有意差はみとめませんでした。 さらに試験前の身体的および認知的変数に関して有意差は認めませんでした(すべてp> 0.250)。

Physical Variables. バランストレーニングは、スタビリティプラットフォームにおける参加者の動的バランス能力を向上させました。事後テストでのバランストレーニンググループの平均は、リラクゼーショングループの平均よりも高くなりました。BESSで測定した機能的バランスや、フォースプレートで評価したCoP揺動速度には有意な訓練効果はありませんでした。トレーニングは参加者の心肺機能を高めるものではありませんでした。VO2peakに対する有意な効果は認めませんでした。

Cognitive Variables. 訓練後、バランスグループの調整された平均は、リラクゼーショングループの平均よりも高くなりました。空間スコアの分析でも訓練後、調節された空間スコアは、リラクゼーション訓練群よりもバランスグループで高くなりました。ストループテストでは事後テストで群間の有意な差は認めませんでした。

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Self-reported physical activity and psychopathological symptoms. 平均して、参加者は週の身体活動時間が、試験前の平均7.62(SD = 5.58)時間から、事後には平均10.12(SD = 6.68)時間に増加していました。さらに、実験後は、実験前よりも週当たりのエネルギー消費量が多くなっていました。

年齢は、身体的および認知的変数のいずれにおいても試行前後の変化と相関は無かった。

Discussion 

健常な成人群における今回の無作為化介入研究の目標は、バランストレーニングが認知機能、特に記憶および空間認知を改善するという仮説を試験することでした。動的バランス能力は、バランスグループにおいてのみ介入前後で改善していました。これとは対照的に、予想通り心肺機能の変化は、バランスグループまたはリラクゼーショングループのいずれにおいても観察されませんでした。バランスグループのみが記憶力および空間認知能力を改善しました。2つのグループのいずれも遂行機能は変化しませんでした。

この知見は、体系的なバランストレーニングが、記憶や空間認知などのいくつかの認知機能を高めることができることを示唆しています。重要なのは、認知機能に対する運動の有益な効果を引き出すためには、心肺機能の増加が必要ではないことが示唆されたことです。このことは、認知機能に影響を及ぼす身体活動における複数のメカニズムがあることを意味しています。

今回の研究では、特に前庭系に影響を与えるためのバランストレーニングを使用しました。前庭系は、本質的に、自己の運動中の線形加速度を検出することによって空間認知および方向付けに関与します。さらに、前庭系は、空間的ナビゲーションに関与することが知られている側頭葉ならびに頭頂-側頭皮質網への解剖学的な接続を有しています。短期バランス訓練後の構造変化は、前頭部および頭頂部で認められます。さらにプロのダンサーやスラックライナーは、海馬後部の灰白質量が大きくなりますが、非バランス専門家と比較して、海馬前方はより少ない体積を有することが知られています。著者らはこの構造差を、海馬への前庭-視覚経路の持続的刺激後の可塑性変化の指標として解釈しました。本研究のバランストレーニングの12週間後の記憶および空間認知の改善は、これらの構造データと一致しています。バランストレーニンググループは、海馬の記憶システムに関連するペア連想学習タスクが向上していました。

今回我々は、バランス(リラクゼーション)トレーニングの後、遂行機能の改善を認めませんでした。高齢者における協調運動、エアロビクス、ストレッチなどを比較した研究の結果では、遂行機能は身体的訓練をしたグループにおいて改善したと報告されています。バランストレーニングの効果は、記憶と空間機能のみに制限されている可能性があります。有酸素運動を実施する研究では、遂行機能の改善が繰り返し観察されています。本研究ではバランスグループもリラクゼーショングループも、心肺機能において有意に変化しませんでした。

さらに今回の参加者は、平均年齢が若く、年齢範囲は先行研究よりもはるかに広いものでした。認知機能は、加齢に伴う変化が存在する場合、運動のような介入に特に敏感であるという仮説があります。したがって、今回、遂行機能に大きな影響を及ぼさなかった別の理由としては、本サンプルの幅広い年齢層があった可能性があります。今回は若年者と高齢者のパフォーマンスの変化には身体的および認知的変数の両方で差がありませんでした。今後の研究では、年齢による差を調べるために、より大きな標本サイズで行う必要があります。 

今回の知見は、バランストレーニングが、リラクゼーショントレーニングと比較して、記憶および空間認知に有益な効果を示すことを示しています。事後テストでのグループ間の違いが、特定のバランストレーニングによって説明されると結論付けるために、他の可能性について議論する必要があります:バランストレーニングは、リラクゼーショントレーニングよりも大きなレベルの固有感覚や視覚、運動覚により大きな学習効果があります。前庭神経経路は本質的に多感覚であり、前庭シグナルは、固有感覚、視覚、触覚情報を初期段階で内包している。それは、求心路における脳幹前庭核や深部小脳核と同じである。どれか一つのサブプロセスが関与しているのか、もしくは前庭覚、体性感覚および視覚の統合が、訓練によって引き起こされた記憶および空間認知の増加に必須であるかどうかは、今後の研究の課題である。パートナーや物との調整を必要とする課題が、トレーニングを参加者にとってより魅力的なものにするために導入されました。リラクセーショングループは2つの異なるリラクセーション手法を取得しましたが、全体的なタスクの複雑さはバランストレーニンググループで高くなりました。複雑な課題を処理するトレーニングでは、記憶と空間認知の能力のみに特化しておらず、遂行機能を要求される課題であった可能性を完全には排除することはできませんが、事後テストでは遂行機能に両群で差がありませんでした。

身体活動は、抗うつ作用および抗不安作用を有し、ストレスに対する耐性を高めることが知られています。本研究では、ベースライン時および介入後に、精神病理学的症状の全体的スコアを評価しました。スコアは、事前テスト時、グループ間で差はありませんでしたし、介入前後での変化も認めませんでした。さらに、両トレーニンググループは、時間の経過と共に自己報告された習慣的身体活動はと同じレベルでした。介入前後での週当たりの2時間の身体活動の増加が両方のグループで記録されており、これは介入への参加を反映したものです。したがって、記憶および空間認知において観察された改善は、バランス介入に関連している可能性が高いです。

要約すると、健常な成人における12週間のバランストレーニングは、記憶および空間認知に正の影響を及ぼし、認知への身体運動の有益な効果を誘発するために心肺機能の増加は必要ないと思われました。

以上のことから、バランストレーニングは、健康上の制限で有酸素トレーニングができない人に対して、有望な代替介入になるかもしれません。

No. 121 誤嚥性肺炎のABCDEアプローチ

誤嚥性肺炎のABCDEアプローチ

「治療」という医学雑誌の最新号に「終末期の肺炎」という特集記事がありました。「終末期」というと、がんをイメージする人が多いと思います。しかし最近は、がんでない疾患(非がん疾患)の終末期・緩和ケアが注目されつつあります。少し前から心不全の終末期・緩和ケアについて注目が集まり様々な取り組みが行われています。そして最新の話題が肺炎の終末期ケアです。

 

高齢者の肺炎の多くを占める誤嚥性肺炎については、治療はただ単に抗菌薬を投与すれば良いというわけではなく、さまざまな介入が必要です。この特集でこれらをABCDEアプローチとして紹介しています。

 

A:Acute problem・・・急性期治療(抗菌薬投与など)

B:Best Position/ Best meal foam・・・適切な食事姿勢と食事形態

C:Care of oral・・・口腔ケア

D:Drug, Disorder of neuro, Dementia/Delirium・・・嚥下に影響する薬の調整、神経疾患の治療、認知症/せん妄対策

E:Energy, Exercise, Ethical・・・栄養、運動、倫理的配慮

 

似た様なことはNo.17でも書きました。

 

uekent.hatenablog.com

 

回復期リハには誤嚥性肺炎後の廃用症候群の患者さんが入院してきます。または脳卒中後で嚥下障害があり誤嚥性肺炎を起こす人もいます。回復期に入院しているからには、上記のABCDEのアプローチをしっかりと行い、嚥下機能の改善、誤嚥性肺炎の予防につとめ、再び安全に食べられるようになることを目指すことが多いです。実際、経鼻胃管や胃瘻、中心静脈での栄養投与だった人が口から食べることができる様になって退院する人もいますが、なかには「終末期の肺炎」の状態になっている人もいるかもしれません。

 

そのような状態の患者さんには積極的な治療が、むしろ有害になる可能性があります。抗菌薬の投与ですら、過剰な輸液負荷による心臓への負担となったり、クロストリジウム感染症を起こして全身状態をさらに悪化させたりするかもしれません。過剰な栄養投与も負担となることがありますし、運動療法も然り、です。

 

ただ、こんな状態でリハビリテーションなんて出来ないと考える方もいるかもしれませんが、そうではないと思います。リハビリテーション運動療法ではないからです。No.1でも述べましたがリハビリテーションは、「尊厳ある生活ができるようにする」ことです。患者さん本人にとって何が幸せなのか配慮しつつ、すべきことを個別に検討する必要があります。そこには本人の(難しければ家族の)病態に対する理解が必要であり、そのためには医療者との情報の共有が必要です。ただ問題は、どこからが「終末期」なのかを判断する基準があるわけではない、ということです。最も知りたいことが、わかっていません。

 

参考:治療 Vol.100 No.11 特集 終末期の肺炎, 2018, 南山堂.

 

本の紹介:「インフルエンザ なぜ毎年流行するのか」

番外編 本の紹介:「インフルエンザ なぜ毎年流行するのか」

過去のミニレクチャーでも感染症関連の内容の時に、参考図書で紹介させていただいた岩田健太郎先生の最新の新書です。内容はタイトルの通りのインフルエンザにまつわる疑問に関することに始まり、そのほかの感染症や医療に関する様々なトピックについて書かれています。医療従事者の方はぜひ一度読んでみることをお勧めします。