No. 157 脊髄損傷 その5 自律神経過反射

脊髄損傷では身体の麻痺の他にもいくつかの合併症が生じることがありますが、その中でも特に重要で知っておくべき合併症に「自律神経過反射」があります。

脊髄損傷では運動神経や感覚神経だけでなく、自律神経も障害されます。自律神経には交感神経と副交感神経があります。副交感神経は脳幹からはじまり脊柱の外を走行するため損傷を免れる反面、交感神経は損傷部位で脳幹と視床下部にある自律神経中枢から遮断されます。すると、膀胱に尿が溜まったり、便秘で直腸の圧が高くなったりすると、その刺激が脊髄に伝達され交感神経が刺激されますが、自律神経中枢から遮断されているため抑制がまったくない状態で交感神経が興奮し、血管が次々と収縮し、血圧が上昇します。特にTh5以上の損傷では内臓神経が上位中枢からの抑制を失うために、内臓神経が支配する腹部臓器の大量の血液が駆出され、高血圧発作を引き起こし、脳出血をきたす場合もあります。

この血圧上昇を脳幹の循環中枢が感知して副交感神経が活性化して、麻痺していない領域の血管が拡張します。すると、紅潮、頭痛、発汗、散瞳、鳥肌、徐脈、鼻閉などを引き起こします。この一連の反応を「自律神経過反射」といいます。

高血圧なのに徐脈という奇妙な取り合わせで、なおかつバットで殴られたような激しい頭痛があればまず間違いなく自律神経過反射です。自律神経過反射を起こした場合は、まずは患者が臥位の場合は座位にします。体をしめつけているものは除去し、あえて起立性低血圧を引き起こします。

そして、最も重要なのは原因をすみやかに取り除くことです。原因の85%が膀胱や直腸の充満であるため、いそいで導尿や摘便を行います。他の原因としては、陥入爪や褥瘡、内科的疾患の場合もあるため、麻痺している場所の入念な診察をします。

原因が除去されればすみやかに血圧は低下しますが、改善しない場合は降圧薬を使用します。しかし、あとで血圧が下がりすぎることがあるため、即効性があり半減期の短い薬を選択します。改善後も排便などで数日は過反射が誘発されやすいため摘便の際には潤滑剤を多めに使用するなどの配慮が必要です。

そして何よりも普段から排尿・排便のコントロールを行い、尿閉や便秘を起こさないようにすることが重要です。


参考文献

脊髄損傷リハビリテーションマニュアル 第3版 神奈川リハビリテーション病院脊髄損傷リハビリテーションマニュアル編集委員会, 2019, 医学書