No. 150 回復期リハビリテーション病棟協会 第33回研究大会 in 舞浜・千葉 まとめ

2019年2月21日と22日に開催された回復期リハビリテーション病棟協会 第33回研究大会へ参加しました。ディズニーリゾートのホテルや映画館、近隣の総合体育館を利用した豪華な学会でした。頭にネズミの耳のついた人々に混じってスーツ姿の人々がいるという何とも不思議な光景でした。開催される場所が複数の施設に分かれているため、会場移動に時間がかかり、そのたびに風に乗って漂ってくる焼き菓子の甘いにおいを嗅ぐことになりました。
学会では多数の特別講演・教育講演が行われ、第一線で活躍する人の話を聞くことができました。以下は特に印象に残った内容の要約です。

 

■大会長講演&アウトカムを高めるための回復期リハビリテーション病棟の組織的運営
近藤国嗣 先生(東京湾リハビリテーション病院)
今回の大会長である近藤先生の講演です。学会の最初と最後に講演されました。ちょうど1年前に2ヶ月間ほど東京湾岸リハで研修させていただきました。回復期リハ病棟を立ち上げるに当たって、今回の講演内容に類似した話を伺っていたので、1年経って初心を思い出す良い機会になりました。講演の要約は以下の通りです:

回リハの運営は「攻め」と「守り」に分けて考える。
「攻め」は個々人のスキルを向上させ患者さんの機能回復を促進することで、エビデンスに基づいた有効なリハを積極的に取り入れ実践する。
何らかの介入を行う場合は、きちんとプロトコルを作成し、それに基づいて実施し、その結果を評価し検証する。
研究も積極的に実施。
「守り」は、個々人のスキルのみに頼ることで生じる患者さんへの不利益がないように、システムを構築することでベースアップをはかること。
システムを構築する分野は多岐に渡る;新人教育、転倒転落対策、活動度の変更、嚥下評価、栄養評価、食事の介助方法、内服自己管理評価など、ほぼすべてフローチャートや、チェックシートを作成し、誰が行っても一定水準の質が担保されるようにする。
栄養評価:ミールラウンドを週に1回行っている。これは食事時間に多職種で回診し、食形態や介助方法、食事姿勢など食事摂取量の向上にむけた評価検討を行うもの。管理栄養士が体重測定は2週間に1回、食べた量の平均を週毎に算出する。摂取量が少ない人にはふりかけやスティック状のカレー(カレーはみんな大好きだそうです)、サイコロチーズを追加、75歳以上では体重は増えても筋肉量は増えにくいため、ごはんではなくおかずを増やす必要がある。食事介助シートを作成し誰が介助しても同じ方法で実施できるようにする。
薬剤回診:定期処方は主治医と薬剤師と看護師が協議しながら処方することで、適切な服薬内容、とくにポリファーマシーの改善につなげている。
家族指導:チェックリストやカレンダーを作成し実施している。セラピスト中心ではなく看護師が中心となることが重要。
新人教育:特にセラピストの新人教育について、介助方法や基本的な評価・手技についてチェックリストに基づいて指導を実施。特定の介入手技(たとえばCI療法や、プリズム療法など)はすべてプロトコルが作られており、それに沿って行うことで一定の質を担保している。
FIMの採点の頻度は2週間に1回にする:急変時によりFIMの値が急激に低下して転院や死亡退院となった場合、急変した直前のFIMの得点で実績指数の計算は行って良いことに診療報酬上なっているが、FIMの評価間隔が1ヶ月では改善していない可能性が高くなるため。
機能回復は運動量に依存するので、動作の獲得のためには繰り返し獲得したい動作を行う必要がある。そのために繰り返し練習できるように難易度を調整するのがセラピストの役割。環境を設定したり、装具や電気刺激などの補助を利用して難易度を調整する。たとえば、立ち上がり動作練習ならば、椅子の高さを高くしたり、手で把持するものの種類や位置を変えることで難易度は変わる。
活動課題を明確化して設計図を組み立てる。将来の見込みを示す。

 

認知症高齢者の美味しく楽しく安全な食の支援を目指して
枝広あや子 先生(東京都健康長寿医療センター研究所)
認知症患者では、赤いコップで他の地味な色のコップよりも有意に水分摂取量が増えたという研究結果があるそうです。食器の色、重要です。

 

■回復期リハビリテーション病棟の展望
吉川裕貴 先生(厚生労働省保険局医療課)
外来の月13単位のリハは今後なくなり介護保険サービスへ移行される予定。実績指数についてもさらなる質の評価の目的でみなおしがされる可能性あり。制度にあわせて運用を後追いで変えるのではなく、出来ることなら最先端を行って制度が後からついてくる立場になりたいものです。

 

■弁護士からみた回復期リハ病棟における医療事故対策
鈴木雄介 先生(鈴木法律事務所)
回復期病棟では転倒事故が多い。訴訟で問われるのは、「予見可能性」と「結果回避可能性」の有無だそうです。つまり病態から予測可能で回避策があるにもかかわらず実施していない、となると過失を問われる可能性があります。逆に予想される事態を評価し、対策を適切に行ったうえでの転倒であれば、それは回避不可能な事故であるため、過失を問われる可能性はほとんどないそうです。最近は身体抑制は最小限にとどめる傾向にあり、全く身体抑制をしないという方針の病院もあるくらいで、回復期リハ病棟での転倒はある程度起こりうるものとして、事前に説明をしておくことが重要だそうです。そして、もし事故が起こった場合は、できる限り早期に家族に説明を行います。その場合は推測で話をせず、起こった事実のみを説明するようにします。また謝罪については「加療中にこのような状況になってしまい申し訳ございません」といったものであれば、謝罪したことで過失を認めたことにはならないそうです。最も大切なのはカルテをきちんと書くことです。

 

■回復期における研究の重要性~回復期から発信するエビデンス
山口智史 先生(山形県立保健医療大学
臨床研究を進めるには、人材の育成と環境つくりが必要ですが、まわり(病院の運営方針、直接の上司)の理解がないと難しく、環境がどうしても合っていなければ職場を変わることも考えるしかないとのことでした。臨床研究をしたければ臨床業務も人一倍行う必要がある、とのことです。研究を行うことで得られる考え方や知識は直接的に臨床業務にも活かされ自身の成長につながるし、研究を継続することで、その分野で発言する立場に立つことができる、とのことです。とは言っても、臨床研究では研究対象は患者さんであり、好き勝手に患者さんを研究に利用することは出来ません。適切な段取りをふんで実施する必要があります。

 

■「リハビリテーション医療の基本」チームワークの組み方、運動療法の基本
三好正堂 先生(浅木病院)
「間違いだらけのリハビリテーション」という本を書かれている先生です。起立着座訓練の有効性を強調されています。1日に400回くらい実施することを推奨されています。当院では100回しか行っていないので、まだまだです。

 

■ぎりぎりまで攻める!リハビリテーションに必要なリスク管理
宮越浩一 先生(亀田総合病院
リハビリテーションリスク管理についての本を出版されている先生です。いままでは「リハ中止基準」ということばで基準が定められていたため、その基準に該当すると積極的にリハを実施することがためらわれていました。最近はガイドラインなどでも「中止基準」ということばは使われなくなってきています。「積極的な訓練を控える基準」などの様に表現されます。つまり完全にリハを中止するのではなく、負荷を調整して、できることを行う、という姿勢に変わりつつあります。このぎりぎりを攻めるリハを行うには、それぞれの患者さんの状態を評価して、負荷を調整して介入するスキルが必要になります。
また、急変時に対応できるように、一次救命措置BLSをリハスタッフもふくめ全職種が実施できるようにすることは必須です。