ミニレクチャー No. 104 下血について

下血について

 

肛門から血液が排泄されることを「下血」と言います。血液の出所は消化管の「どこか」である場合がほどんどですが、消化管のどの辺りからの出血なのかで、その後の対応が異なってきます。出血源を知ろうと思えば、内視鏡検査で実際に出血しているところをみつければ間違いないですが、胃カメラも大腸カメラも大変な検査ですし、回復期リハ病棟ではまず行えない検査です。そもそも下血した人すべてに内視鏡検査をする必要もありません。

 

下血の色が、黒いのか、赤いのか、によって出血部位がある程度推測できます。血液は消化管内に滞在する時間が長いほど、黒っぽくなります。消化管内の滞在時間が14時間を超えると便は黒くなります。黒色便(=「タール便」「メレナ」とも呼ばれます)はトライツ靭帯という、小腸の途中(十二指腸と空腸の間)にあって小腸を後腹壁につなぎとめている靭帯のような構造物より上の消化管、つまり食道や胃、十二指腸からの出血の場合が殆どです。

 

一方で、14時間以内では血液成分の色は、暗赤色~鮮血色になります。この場合、ほとんどの場合はトライツ靭帯より下の消化管、つまり小腸や大腸、直腸からの出血です。しかし上部消化管出血の場合でも大量の出血の場合は滞在時間が短くなり鮮血便になる場合もあります。ただしこの場合はほとんどショック状態になっているため、便の色をどうこう言っている場合でないことがほとんどです。 

 

つまりは下血をみたとき、便の色より何よりもまずは、血行動態が安定しているか、ショック状態になってないか確認することが重要です。仰臥位で計測した収縮期血圧が(普段の血圧が正常なのに)90mmHg以下であったり、頻脈(120回/分以上)の場合は迅速な対応が必要です。安静状態でバイタルサインが安定している場合は、起立性低血圧の有無を確認します。

 

内視鏡検査の適応かどうかを判断するBlatchfordスコアというものがあります。BUN、ヘモグロビン値、収縮期血圧、他のリスク因子の数(心拍数、メレナ、失神、肝疾患、心不全)で点数をつけ。点数が高くなるほどハイリスクです。ハイリスクの患者さんであれば、24時間以内の内視鏡検査が推奨されていますので、検査のできる施設への転院も含め、迅速な対応が必要です。

 

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参考文献

小林 健二:極論で語る消化器内科, 丸善出版, 2018.