ミニレクチャー No. 87 高次脳機能障害 その5:遂行機能障害とは?

高次脳機能障害 その5:遂行機能障害とは?

 

「遂行機能」は今まで出てきた「注意」や「記憶」と比べると普段使わない言葉ですが、何となく意味はわかるのではないでしょうか。普段の生活で私たちは、何をするにしても目的を持って行動しています。その目的を明確に意識していることもあれば、無意識の場合もあるかもしれませんが、とにかく無目的に動くことはめったにありません(ゼロとはいいませんが)。

 

遂行機能は、この目的をもった一連の行動を成し遂げるために必要な能力です。細かく分けると、第一に「何をしたいのか構想する能力」、そして「目標を達成するための段階を考え、行動の枠組みを決定する能力」、次に「一連の各行為を順序よく開始、維持、または中止する能力」、最後に「常に目標を意識し遂行中の行為がどの程度目標に近づいているかを評価する能力」です。

 

遂行機能が障害されると、仕事や家事などの段取りが悪くなります。1つの行動なら出来ても2つ以上の行動になると同時にはできなくなります。例えば、「洗濯をしながら料理など、1つは出来ても2つの行動となると出来ない」「スマートフォンやパソコンの操作が分からない」「買い物で複数の商品を比較できない、割引サービスなどが分からない」などの症状がみられます。また優先順位も付けられないので、2つ以上のことを頼まれると行動に移せなくなります。

 

さらに、計画的な行動が出来ないので、刺激に対して衝動的な行動を取りがちです。例えば仕事をしている最中に別のことに注意が向き、仕事を効率的に進めることが出来なくなったり、ゴールを決めずに作業を開始してしまうことがあります。

 

また、目標を立てることが出来ない、もしくは目標を立ててもプロセスを計画出来ないので行動を開始できません。周囲からは、無関心で自発性が欠けているように見えてしまう可能性もあります。一方で、ひとつのことを実行することは出来るので、誰かに指示をされると行動出来ます。ただし、指示が無いとどうして良いか分からず行動できなくなります。例えば日常生活の中でも、作業の順序を全てメモし、その通りでないと物事を進めることが出来ません。

 

注意を持続させて客観的に自分を見ることが出来なくなるので、状況の変化に応じて対応することが出来なくなります。第三者目線で自分の行動を評価することや分析・改善することが出来ないので、同様の失敗を繰り返すことも少なくありません。

 

遂行機能は前頭葉が担う機能ですので、前頭葉の傷害でみられますが、様々な認知機能が複合された機能ですので、その他の脳の部位の傷害でもみられます。認知症でも当然みられます。純粋な前頭葉傷害による遂行機能障害の場合は、適切な課題・ゴール設定を行い問題解決を行う練習することで、ゆっくりですが少しずつ改善することが多いです。他にはスケジュール帳や、マニュアルを補助的に用いたりします。

 

参考

先崎 章:高次脳機能障害 精神医学・心理学的対応ポケットマニュアル, 医歯薬出版株式会社, 2014.

原 寛美:高次脳機能ポケットマニュアル 第3版, 医歯薬出版株式会社, 2015.