ミニレクチャー No. 13 ユマニチュードについて

ユマニチュードについて

 

「全人的な医療・ケア」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。何となく意味はわかりますし、良さげなことを言っているということはわかります。しかし、それが具体的にどの様な医療・ケアなのかはっきりしません。

 

わかりにくいことは、反対の「全人的でない医療・ケア」とはどの様なものか?ということから考えてみれば、少しは見えてくるかもしれません。「全人的でない医療・ケア」とは、患者さんを、仕事の対象、つまり、病気を治療し、栄養を食べさせ、排泄させ、清拭し、寝かせて、トラブルなく過ごさせる、などの「こなすべき課題の集合体」とみなしたケアではないでしょうか。

 

人道的云々という綺麗事ではなく、この様な「全人的でない医療・ケア」は、患者さんのADLの低下や、認知機能の低下、せん妄などの、具体的で現実的な問題を引き起こします。急性期病院では、病気の治療が優先されるため、どうしても「全人的でない医療・ケア」となりやすいです。急性疾患で入院した70歳以上の高齢者の3割が、入院当時にはなかった、ADLの低下や、認知機能の低下、せん妄などの新たな機能低下が退院時に発生しているという報告があります。

 

その予防方法として、ユマニチュード(Humanitude®︎)があります。ユマニチュードはイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが医療・介護の現場で遭遇したケアの実施が困難な事例の経験から生み出した実践的なケア技法です。ユマニチュードの根底にあるのは、「あなたを大切に思っています」というメッセージを、相手が理解できる形で表出するというものです。このメッセージの表出は、言語的・非言語的に行われ、「見る」「話す」「触れる」「立位援助」を4つの柱としています。道徳的心がけではなく、具体的なコミュニケーションの技術です。

 

PT・OT・STなどのセラピストがマンツーマンでおこなうリハは、この4つの柱を、ユマニチュードを知らなくても自然と実践していることが多いと思います。回復期リハ病棟における医療・ケアにとって、ユマニチュードは相性が良いと思います。セラピストのみならず、看護師・介護士が行う日々のケアも、同じ原則のもとに行われることで、せん妄や認知機能の低下、ADLの低下を防ぐことに繋がり、最終的に患者さんの機能も向上し、せん妄などのトラブルも減少し、スタッフも気持ちよく・楽しく働くことがでる環境につながるのではないかと思います。

 

参考文献:

本田美和子:医師のためのユマニチュード マルチモーダル・コミュニケーションの理論と実践, 総合診療 Vol.27, No.5,593-599, 2017.

本田美和子, イヴ・ジネスト, ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門, 医学書院, 2014.