ミニレクチャー No. 12 感染対策:手洗い

感染対策:手洗い

 

患者さんは病気を治すために入院します。入院したことで入院した時よりも状態が悪くなってしまう、なんて思っている人は一人もいないと思います。しかし、実際に少なからずこの様なことは起こっています。病院に生息する細菌による感染症、いわゆる「院内感染」です。どこの病院も院内感染を予防するための対策を講じています。回復期リハ病棟も同様です。

 

感染対策の基本中の基本が「手洗い」です。手には無数の細菌が付着しています。院内感染の原因となる細菌も付着しているかもしれません。MRSA緑膿菌ESBL、クロストリジウムなどなど。抗菌薬(細菌を殺す薬)を多く使用する病院では、この抗菌薬が効きにくくなった耐性菌が繁殖しやすく、これらの菌は、健康な人(職員)には無害でも、免疫力の弱った人(患者)には感染症を引き起こすことがあり、治療が難しく、時に命に関わることもあります。

 

細菌を人から人へ伝播させないために「手洗い」が重要です。すべての患者さんの診療・看護・介助・リハの前後には必ず「手洗い」を行わなければなりません。「手洗い」と言っても実際に石鹸と流水で洗うのではなく、アルコールによる手指消毒です。石鹸による手洗いでは、30秒あらっても細菌数は1/601/600程度までしか減少しませんが、アルコールで30秒手指消毒すると1/3000まで減少し、1分で1/100001/30000まで減少します。一般病棟の看護師さんの3割の人の手に3800個の黄色ブドウ球菌が付着しているとされています。石鹸による手洗いでは十分に取りのぞけません。

 

また石鹸ボトルなどには、緑膿菌が繁殖しやすいという問題があります。詰め替えて使っている液状石鹸は緑膿菌だらけです。石鹸による手洗いは肉眼的に汚れた場合や、クロストリジウムの感染者の診療をした後に行いましょう。クロストリジウムは芽胞を形成するためアルコールで死滅しません。そして、手についた水分をしっかりと拭き取ることが重要です。

 

人は皆「知ってはいるけど実行しない」という性質があります。「わかっちゃいるけどやめられない」ってやつです。手指消毒が重要であることは、知識としてはすでに知っていたかもしれません。しかし、「患者さんに関わる度に必ず手指消毒をしていた」という人はいないのではないでしょうか。しかし「トイレの後に手をあらわずに、すぐにサンドイッチを食べる人」もいないと思います。自分に対してしていることを、自分よりも免疫の弱い患者さんたちへも行うことが当たり前、しないと何となく気持ちが悪い、と感じるくらい習慣化しましょう。

 

参考文献

矢野 邦夫:ねころんで読めるCDCガイドライン メディカ出版