No.112 不明熱(FUO)

以下は、Harold W. Horowitz : PERSPECTIVE; Fever of Unknown Origins or Fever of Too Many Origins? NEJM. JAN 17, 2013.の要約です。

不明熱(FUO : Fever of Unknown Origin)とは、38.3 を超える発熱が3週間持続しているにもかかわらず、入院しての1週間の検査によっても診断確定されず、複数回繰り返す状態、と1961年にPetersdorfとBeesonによって定義されました。今は当時よりも検査技術や疾病構造が変化したため、定義が変更され「3日間の入院検査でも診断確定されない3週間持続する発熱」とされています。

PetersdorfとBeesonのオリジナルの報告によると、FUOの原因は感染症(36%)、悪性疾患(19%)、膠原病(19%)、その他薬剤熱など(19%)となっており、真の原因不明は7%でした。1961年当時と比較すれば、CTやMRIなどの画像機器や、培養技術・血清学的分析・PCRなどの検査の進歩など、発熱の原因を追求する手段が増えているにも関わらず、当時よりも多くのFUOの診断がつかなくなり、今やFUOのうちの30%が原因不明のままとなっています。

古典的FUOの数は減ってきており、最近はICUに入院している頭部外傷やその他の神経学的疾患や認知機能障害のある患者、人工呼吸器に繋がれていたり、尿道カテーテルや中心/末梢静脈ルートのある患者、手術後の患者、そしてすでに広域の抗菌薬を投与されている患者などでよくみられます。それらの患者では何週間も、時には何ヶ月も発熱が続くのに、その他の敗血症の兆候が認められません。

そのような患者の身体診察をすると、局所の浮腫や、軽度の仙骨部褥瘡、薬疹っぽくない皮疹、軽度の腹部膨満、明らかな感染兆候のない傷、など熱の原因とは言えない程度の所見ばかり、ということがよくあります。また検査をすると、白血球数は正常か軽度上昇に留まり、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が培養で生えたり生えなかったり、尿検査も膿尿だったりグラム陰性菌がいたりいなかったり、喀痰からはわずかな白血球しか検出されず、胸部画像検査では「肺炎を否定できない」程度の所見しか認めなかったりします。CTでは「術後性変化もしくはわずかな液体の貯留を認めるが感染症を示唆する初見ではない」というような読影結果が返ってきて、副鼻腔の画像検査をすると「粘膜の肥厚を認めるが他の副鼻腔炎の初見」なんてことになります。静脈エコーでは血栓症の所見はなく、CRPは日によって変動してあてにならない、CD検査は陰性、経胸壁心エコーは陰性。こんなにたくさんの検査をしたにも関わらず、発熱の原因を特定できない。このような発熱は、DurackとStreetによると「医原性の感染症」がもっとも考えられます。通常の感染症よりも広い範囲の感染原因を考える必要があり、実際、FUOというよりも、「原因が多数ある発熱Fevers of Too Many Origins (FTMOs)」かもしれません。

こんな時に抗菌薬を広域に投与し続けるのか、中止するのか決定することは簡単ではありません。広域な抗菌薬は「耐性菌を作らないように使用を制限すべきである」という原則と、「患者を救うために適切な抗菌薬(それはつまり多くの耐性菌もカバーする広域な抗菌薬)を迅速に始めるべきである」という相反する原則を同時に考える必要があるからです。古典的なFUOでは時に患者が元気な場合もありますが、FTMOsの多くは衰弱しています。ときに完全に回復して元の生活に戻る人もいるものの、多くは死ぬか長期療養の施設へと送られることになります。そんな中、おそらく無効であると考えられる抗菌薬を使用することが倫理的に正しいかは議論の余地のある問題です。投与の結果として耐性菌を作り、それが他の患者へと伝播するかもしれません。他方で、抗菌薬投与によって命が助かる可能性もゼロではないのです。そこには明確な指示や倫理的指針、クリニカルパスは今の所ありません。様々な選択肢を熟考するにつけて、抗菌薬を使うか止めるか、もしくはさらなる検査をするかどうかについて考えていると次第に自信がなくなり、難しい決断を次の日に先延ばししてしまうのです。

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