ミニレクチャー No. 57 脳卒中 その5:偽性球麻痺について

脳卒中 その5:偽性球麻痺について

 

先日「摂食嚥下リハビリテーションと最近のトピックス」という講演会に参加しました。講師の先生は、聖隷淡路病院リハビリテーション科の重松孝先生です。重松先生は昨年度まで、浜松リハビリテーション病院に勤務されておりました。浜松リハは院長の藤島一郎先生を中心として摂食・嚥下障害に対する総合的な医療を実施しておられます。

 

今回の講演は、嚥下に関する基本事項である、摂食・嚥下のプロセスモデル、嚥下中枢、球麻痺と偽性球麻痺について、嚥下障害時の代償手段としての、リクライニング、頚部回旋、横向き嚥下、間欠的経管栄養などについて話があり、後半、最新の研究内容としてHigh Resolution Manometry、vacuum swallowing、tDCS、fMRIによる食事の見た目による脳活動の違いなど、についての話がありました。

 

今回の講演の基本事項で出てきた「偽性球麻痺」について少しまとめます。最新のことよりもまずは基本です。

「偽性」=「にせもの」、とつくのですから、本物があります。本物の方の「球麻痺」が指す「球」とは、延髄のことです。延髄の形がすこし膨らんで丸いため「球」と呼ばれています。延髄には嚥下に関与する筋肉を動かす神経の核があり、そこが障害されて起こる構音や嚥下に関わる筋の麻痺を「球麻痺」と言います。

 

それに対して、大脳皮質からその延髄の神経核に向かって入ってくる神経の経路(皮質延髄路といいます)が障害されることで起こる麻痺を「偽性球麻痺」と言います。球麻痺の場合は、左右のどちらか一方が障害されれば麻痺がおこりますが、偽性球麻痺は両方の皮質延髄路に障害を受けてはじめて麻痺が起こります。原因となる病気としては、脳卒中多発性硬化症脳性麻痺筋萎縮性側索硬化症脳炎、脳腫瘍、頭部外傷、一酸化炭素中毒などがあります。

 

脳卒中はほとんどの場合左右のどちらか一方の大脳半球に起こるので、初回の大脳皮質に起こった脳卒中では、理論上、偽性球麻痺は起こりません。ですが、高齢者の場合、大きな脳卒中としては初回であったとしても、気づかないうちに、症状を示さない小さな脳梗塞が過去に起こっている場合もあり、初回の脳卒中でも偽性球麻痺を起こす場合があります。

 

偽性球麻痺の症状は、構音障害と嚥下障害です。舌や口唇、頬の筋の運動麻痺と筋緊張の亢進によって起こります。嚥下障害は、固形物よりも水分の嚥下が難しくなるのが特徴です。もちろん重症になればどちらも障害されます。

 

参考文献

藤島一郎 監修:疾患別に診る嚥下障害, 医歯薬出版株式会社, 2014.