No. 155 長谷川式簡易知能評価スケール

長谷川式簡易知能評価スケール

 

医療従事者であればほとんどの人が「長谷川式簡易知能評価スケール」を知っていると思います。1974年に作成され、1991年に採点基準を見直された改訂版「HDS-R」が現在は広く使われています。9項目30点満点の検査で短時間で認知機能のスクリーニングができます。20点以下の場合認知症の疑いが強くなります。この評価法は認知症専門医の長谷川和夫さんという方が考案されたものです。

 

2016年の時点で90歳になられた長谷川さんは、認知症になりそのことを世間に公表されています。ご自身が実際に認知症になってわかったことは、「自分が経験したことへの『確かさ』があやふやになってきた」という感覚だそうです。外出する時に鍵をかけたか心配になって戻る、ということを何度も繰り返すようになってきたそうです。また午前中は調子が良いけど午後の3時頃からは疲れてきて、調子が悪くなるそうで、一晩眠るとまた調子が戻っていると実感されたそうです。入院中の認知症の患者さんが夕方から夜間に不穏になるのも脳の疲労によるところが大きいのかもしれません。

 

認知症の患者さんへの対応で注意すべきこととして述べられているのは、「患者さんの気持ちを聞き出すことが大切で、こちらの都合や事情を押し付けるのではなく、患者さん中心のケアを行うことが重要である」と述べられています。デイサービスは職員がひとりひとりの利用者の状態を把握して接してくれる、とても良いところで「まるで王侯貴族のような気分を味わえる」と、大変おすすめされています。

 

入院中の患者さんに対してはどうしても規定の枠にはめようとしがちです。入院すると認知症が進むことがあるのは当然のことで仕方のないことであると思っていましたが、もしかしたら適切な対応ができれば、違ってくるのかもしれません。「認知症の人は、そうではない人と同じようなものの考え方をしており、発症前と後で全く別の自分になるのではなく、連続性があり『ここから先が認知症だ』というよな線引きはできない」と述べられています。記事の最後では以下のように述べられています。

 

「僕と同じ生活史を持っている人が誰一人としていないように、認知症の患者さんも、人それぞれに貴重な体験をしている尊い人間なんです。そのことを患者さん自身も、患者さんを支える側の人々もよく分かってほしいと願っています。」

 

ちなみに、長谷川さんはいくら認知症になったとは言っても、ご自身が開発したHDS-Rはすべて記憶していて満点になってしまうので役に立たなかったそうです。

 

参考:NHKラジオ深夜便2019年3月号 放送ベストセレクション 長谷川和夫「認知症専門医の”認知症ライフ”」