ミニレクチャー No. 72 高次脳機能障害 その1 :高次脳機能障害とは?

高次脳機能障害 その1 高次脳機能障害とは?

高次脳機能障害とは、脳の損傷が原因で生じた認知や精神機能の障害です。前頭葉の広い損傷で起こる「記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害」などと、大脳の特定の部位が損傷されることで起こる、失語症半側空間無視などがあります。今回は、前頭葉の損傷でおこる高次脳機能障害についての概要です。

高次脳機能障害の原因は、8割が脳卒中で1割が頭部外傷です。若い人では、交通事故による頭部外傷によるものがほとんどです。厚生労働省による診断基準は以下の通りです:

 I. 主要症状など

  1. 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。

  2. 現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知機能である。

 II. 検査所見

  • MRICT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

 III. 除外項目

  1. 脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認知可能である症状を有するが、上記主要症状を欠くものは除外する。
  2. 診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する、
  3. 先天性疾患、周産期における脳損傷発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。

 IV. 診断

  1. I~IIIをすべて満たした場合に、高次脳機能障害と診断する。
  2. 高次脳機能障害の診断は、脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
  3. 神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

細かい症状については今後説明していきますが、重要なポイントは「高次」とついているだけあって、回復期リハ病棟で入院生活を送るだけの時には、特に高次脳機能障害が問題となることなく、無事に退院したのに、社会生活に復帰し、復学や復職をした段階で、受傷前までは出来ていたことが上手くできず、他者とのコミュニケーションでトラブルを起こしたりして、初めて高次脳機能障害が認識される場合があります。

そのような事態にならないためにも、入院中にしっかりと評価して、必要なリハビリテーションの提供、患者さんや家族への高次脳機能障害というものについての理解を促すための教育と退院後の対策の指導を行う必要があります。

脳卒中高次脳機能障害がある場合、回復期リハ病棟の入院期間が180日と長く設定されています(No. 4参照)。それは、高次脳機能障害は長い時間をかけて改善する、という特徴があることを反映した設定です。治療者も患者さんも根気強く付き合ってゆく覚悟が必要です。