ミニレクチャー No. 59 急変対応:頭蓋内病変を身体所見で見極める
急変対応:頭蓋内病変を身体所見で見極める
脳梗塞や脳出血、外傷性のくも膜下出血や頭蓋内血腫など、頭の中で何か非常事態が起こると、頭蓋内は密閉空間であるため、その中の圧力(頭蓋内圧といいます)が高くなります。この状態を頭蓋内圧亢進といいます。すると頭痛や嘔吐、重症な場合は意識障害などの症状を引き起こします。
そのような状況でも、大切な脳に血液を送り届ける必要があるので、何とか上昇した頭蓋内圧をくぐり抜けて血流を維持しようとして、血圧が高くなります。つまり、突然意識がなくなった、それまでなかった麻痺が出現した、転倒して頭をぶつけた、などの状況で収縮期血圧が180mmHgよりも高い場合は、かなりの確率で頭蓋内の病変が存在しています。
意識障害の原因には、様々なものがあります。頭文字をとって”AIUEOTIPS”という語呂合わせが有名です。
A :Alcoholアルコール、Aortic Dissection大動脈解離
I :Insulin低/高血糖
U :Uremia尿毒症
E :Encephalopathy脳症、Endocrinopathy内分泌疾患、Electrolytes電解質異常
O :Overdose薬物中毒、decreased O2低酸素
T :Trauma外傷、Temperature低/高体温
I :Infection感染症
P :Psychogenic精神疾患、Porphiriaポルフィリア
S :Seizureてんかん、Shockショック、Stroke脳卒中
意識障害があるときに収縮期血圧が180mmHgよりも高い場合、頭蓋内病変である確率は約26倍高くなります。その他に注目すべき所見としては、瞳孔の所見があります。瞳孔の大きさに左右差があったり、対光反射が消失している場合も、頭蓋内病変の可能性が高くなります(1mm以上の左右差:9倍、対光反射の消失:3.5倍)。ただ対光反射の診察にはコツが必要です。
一方で、血圧の測定は簡単で、しかも大変有効です。どんな状況でもバイタルサインと呼ばれる脈拍、体温、血圧、呼吸数、酸素飽和度は、基本中の基本です。基本が大切です。
参考文献:
坂本壮:あたりまえのことをあたりまえに 救急外来診療の原則集, 有限会社シーニュ, 2017.