ミニレクチャー No. 55 感染対策:MRSAについて

感染対策:MRSAについて

 

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)は、病院内で感染症を引き起こす最も重要な病原体です。

 

そもそも黄色ブドウ球菌は、皮膚や消化管内の表面に住み着いていて、普段は何も症状は引き起こさず無害です。しかし、怪我などで皮膚が傷ついたりすると体内に入り込んで「できもの」を引き起こしたり、肺炎や敗血症などの重篤感染症や、食中毒の原因になることもあります。

 

昔は、黄色ブドウ球菌にはペニシリンの様な昔からある抗菌薬が効いていました。しかしペニシリンが普及して広く使われるようになって、ペニシリンが効かない耐性菌が出現しました。これに対応するためにメチシリンという新しい抗菌薬が開発され、広く使われるようになると、今度はこれにも耐性である MRSA が出現しました。

 

そもそも黄色ブドウ球菌は体に住み着いている菌ですので、MRSAが住み着いてる人もたくさんいます。しかし住み着いてるだけでは普通の黄色ブドウ球菌と同じように何の問題も引き起こしません。この住み着いた状態にある人を「保菌者」といいますが、保菌者にMRSAの治療をする必要はありません。昔は、療養型施設への入所が、MRSA保菌者であるというだけで断られることがあり、転院・入所のために必要のない「治療」がなされたりすることがありました。正しい知識が浸透するにしたがって、そのような無意味なことは減ってきてます(ただし、MRSAについては減ってきましたが、他の新しい耐性菌については同じことが繰り返されています)。

 

MRSAによる感染症に対しては、バンコマイシンという抗菌薬が有効です。最近は他にも有効な薬があります。しかし過去の歴史をみればわかる様に、これらの抗菌薬は大事に使わなければなりません。どんどん使っていれば、いつか必ずバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌VRSAが現れる時がきます。すでにバンコマイシンが効きにくくなった黄色ブドウ球菌は存在します(バンコマイシン低感受性黄色ブドウ球菌)。

 

そして治療と同じく大切なのが病院内で伝播するのを防ぐ感染対策です。MRSAの感染経路は医療従事者や患者さん自身の「手」です。なので「手指消毒」こそがMRSA対策の基本です。隔離やガウン・マスクの着用はケースバイケースです。MRSA肺炎で咳・痰が多ければ飛沫による飛散の可能性があるので、マスクやガウン、場合によっては隔離も必要かもしれません。しかしMRSA感染症の患者さんすべてを隔離したり、ガウンやマスクを必ずつけるようにすることは過剰な対応であり、ひいては患者さんの活動量を制限し、廃用症候群を引き起こしてしまいます。回復期リハ病棟の感染対策としては不適切です。

 

参考文献:矢野 邦夫:ねころんで読めるCDCガイドライン, メディカ出版, 2007.