ミニレクチャー No. 54 「患者さんの呼吸が時々止まってます!」

「患者さんの呼吸が時々止まってます!」

 

患者さんが夜間寝ている時や、意識状態が悪い時に、一時的に呼吸が止まっていることがあります。いわゆる「睡眠時無呼吸」と呼ばれるものです。

 

そのような睡眠時・意識障害時にみられる無呼吸をよーく観察してみてください。大きく吸って呼吸をしていたかと思えば、次第に浅い呼吸になり、ついには10-20秒ほど呼吸が停止し、その後また浅い呼吸がゆっくりと始まり、次第に大きな呼吸になり、再び同じパターンで呼吸が停止する、ということを繰り返す人がいるかもしれません。

 

この周期的な呼吸パターンを「チェーン・ストークス呼吸」といいます。チェーン・ストークス呼吸は、心不全脳梗塞脳出血のある患者さん、寝たきりの高齢者(特に脳に萎縮のある人)で出現します。200年程前にジョン・チェーンが発見し、ウィリアム・ストークスが心不全の時に出現することを報告したため、二人の名前がつけられています。

 

チェーン・ストークス呼吸は、脳が障害され、呼吸中枢の感受性が低下した場合や、脳の低酸素状態の時にみられます。脳の呼吸中枢は、正常では血液中の炭酸ガス(=二酸化炭素)の増減によって呼吸の調整をしています。つまり、炭酸ガスが増えると「呼吸せよ」という命令がでて、炭酸ガスが減ると命令がでなくなります。

 

慢性心不全の患者さんでは、目が覚めている時は炭酸ガスのわずかな変化に敏感に反応するようになっています。ところが、睡眠中はこの感受性がさがります。すると、睡眠中は炭酸ガスがかなり蓄積しないと呼吸中枢が刺激されず、呼吸が開始されなくなります。ですので結果として、無呼吸となり炭酸ガスが蓄積して、ようやく呼吸中枢を刺激し、「呼吸せよ」という命令が出て呼吸を開始するけど、再び炭酸ガスが減ると呼吸命令がなくなり無呼吸になる、ということを繰り返すことになります。

 

チェーン・ストークス呼吸がみられた場合にどうするかは、その原因が何かによって異なります。以前は「チェーン・ストークス呼吸がみられた患者さんは予後が悪い」と言われていましたが、最近はそうでもないとされています。ただし、心不全が原因で起こるチェーン・ストークス呼吸の場合、この呼吸パターンを続けることが心不全をさらに悪化させるという負のスパイラルに陥るため、心不全の治療に加えて、CPAP(持続陽圧換気療法)によるチェーン・ストークス呼吸の治療が行われます。

 

 

参考文献:

倉原 優:もっとねころんで読める呼吸のすべて ーナース・研修医のためのやさしい呼吸器診療とケア2, メディカ出版, 2016.