ミニレクチャー No. 36 サルコペニアとは

サルコペニアとは

 

歳をとると筋肉は減少し、筋力も低下します。この加齢に伴う筋肉量・筋力の減少をサルコペニアsarcopeniaといいます。サルコペニアは加齢によって進行します。そこに、活動の低下、疾患(臓器不全、悪性腫瘍、炎症性疾患)、栄養不足などが加わることで、さらに進行してしまいます。回復期病棟に入院する高齢者のほとんどが、様々な要因によってサルコペニアの状態になっています。

 

サルコペニアが進行すると転倒、骨折につながります。さらに筋肉量が減少すると血糖値が上昇し易くなり糖尿病が悪化したり、水分の貯留量が減少するため脱水になり易くなるなど、健康状態にも影響を与えます。

 

サルコペニアを予防するには、筋肉の原料となるタンパク質を十分に摂取する必要があります。1日に必要なタンパク質は、体重1kg当たり1.0~1.5g以上と言われています。またビタミンD欠乏があると筋力低下・筋肉量の低下起こすため、不足している場合は補う必要があります。さらに、植物や魚に含まれる不飽和脂肪酸(DHAとかEPAとか)には、サルコペニアの予防効果があるかもしれないです。早い話が「バランスよく食べる」ということになるのですが、日本人は年とともに食事に占める炭水化物の割合が高くなる傾向にあります。推奨されている栄養バランスよりもタンパク質や脂質は多めに摂取した方がよい、と最近言われています。

 

65~71歳の女性554人を対象に、タンパク質摂取量と身体機能の関係をみた研究によると、タンパク質摂取量の多い女性(1.2g/kg)は、少ない女性(0.8 g/kg)や、中等度の女性(0.81-1.19g/kg)と比較して、握力、膝伸展、片脚立位、椅子起立、スクワット、10m速歩き速度、short physical performance batteryのスコアが有意に良かったという報告があります。

 

ただし十分な栄養を摂っただけではサルコペニア予防には不十分です。筋肉の合成に必要な栄養を摂取しつつ、運動をする必要があります。つまり筋トレが必要です。おおよそ全力の80%くらいの筋力を出す筋トレを、10回前後を2~3セット週に3回くらい行うと3ヶ月程度で効果が現れます。もう少し負荷を少なくして頻度を多くしても有効かもしれません。とにかく、食べて運動することができればよいのですが、実際には、そう単純に行かないことの方が多く、それぞれの患者さんで個別の対応が必要です。

 

参考文献

大村 健二, 葛谷 雅文:治療が劇的にうまくいく!高齢者の栄養 はじめの一歩 身体機能を低下させない疾患ごとの栄養管理のポイント, 2013, 羊土社.

Isanejad M et al. Dietary protein intake is associated with better physical function and muscle strength among elderly women. British Journal of Nutrition. 2016, 4;115(7):1281–91.