ミニレクチャー No. 35 たかが便秘、されど便秘

たかが便秘、されど便秘

 

入院中の患者さんの大半が便秘である、と言っても過言でないくらい便秘の患者さんは多いです。ところでどのくらい便がでなければ便秘症と診断されるかご存知でしょうか。慢性便秘症診療ガイドラインには、以下の6項目のうち、2項目を満たす場合に便秘症と診断すると記載されています:

 

a. 排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある

b. 排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便

c. 排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる

d. 排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある

e. 排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である

f. 自発的な排便回数が週に3回未満である

 

便秘症の原因は、ほとんどが加齢に伴う機能性便秘(つまり特に原因なし)ですが、中には薬剤性便秘や、疾患による続発性便秘の場合もあります。便秘を起こす薬は意外と多く、たくさんの薬を飲んでいる高齢者では、さらに便秘薬を追加するよりも、不要な薬を減らすことが重要です。

 

便秘を引き起こす疾患:

糖尿病、甲状腺機能低下症、慢性腎不全、脳卒中多発性硬化症パーキンソン病、脊髄損傷、精神発達遅滞、皮膚筋炎、アミロイドーシス、うつ病、痔核、炎症性腸疾患、直腸脱、大腸腫瘍

 

便秘を起こす薬剤:

アトロピン、抗うつ薬抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、ベンゾジアゼピン睡眠薬、抗ヒスタミン薬、オピオイド、カルシウム拮抗薬、抗不整脈薬、血管拡張薬、利尿薬、制酸薬、鉄剤、陰イオン交換樹脂、制吐薬、止痢薬

 

治療は主に食習慣の改善や薬物治療です。便秘薬としては、急場の排便誘発には刺激性下剤がよく使われます。一時的に用いるぶんには良いのですが、慢性的に利用していると耐性ができてしまい効きにくくなってしまいます。先ほどのガイドラインでは、浸透圧性下剤(酸化マグネシウム)や最近出た上皮機能変容薬(ルビプロストン)を推奨しています

 

便秘治療薬:

・プロバイオティクス:ミヤBMビフィズス菌 ・浸透圧性下剤:酸化マグネシウムラクツロース

・刺激性下剤:センノシド、ピコスルフォNa ・上皮機能変容薬:ルビプロスト

漢方薬:麻子仁丸、大建中湯、大黄甘草湯

 

高齢者の場合、便秘と退院後も付き合っていかなければならない可能性が高いです。便秘はせん妄の原因にもなりますので、適切な対応が必要ですが、同時に長期的な対策も必要です。

 

参考文献

石井洋介:Common disease診療のためのガイドライン早わかり 第26回 便秘, Gノート, 5 : 575-581.