ミニレクチャー No. 15 高齢者のせん妄にはどのように対処すればよいか?

高齢者のせん妄にはどのように対処すればよいか?

 

せん妄は、入院中の高齢者でよく見られる一過性の意識の混乱した状態です。心臓の機能が低下した状態を心不全と言いますが、同じように、せん妄は脳の機能が低下した状態、脳不全の状態です。もともと心臓に持病があり弱っている人に、さらに負担がかかれば、心不全になります。それと同じように、もともと脳の機能が低下(認知症脳卒中、加齢による脳萎縮など)していて、そこにさらなる負荷が加わることで、脳不全、すなわちせん妄が起こります。

 

せん妄になる患者さんは、そうでない人と比較して、死亡率が2倍増えます。また、せん妄に有効な薬はなく、せん妄で暴れている人を薬で静かにすることは出来ますが、薬を使用すると死亡率はさらに上昇します。したがって極力非薬物治療を行うのが原則です。

 

せん妄を誘発する因子の語呂合わせがあり、英語ですが、頭文字をとって「DELIRIUM」(

「せん妄」の意)です:

 

Drug(薬:睡眠剤、アレルギーの薬、ある種の胃薬など多数)

Electrolyte disturbances電解質異常)

Lack of drugs(薬の不足:痛みはせん妄を引き起こします、鎮痛薬は十分に)

Infection感染症:高齢者では肺炎の症状がせん妄だけだった、なんてことも)

Reduced sensory input(感覚刺激の減少:拘束を避け、眼鏡・補聴器を付ける)

Intracranial disorders(脳の疾患があればせん妄になりやすい)

Urinary and fecal disorders尿閉や便秘、バルーンカテ留置はせん妄を起こす)

Myocardial and pulmonary disorders(心肺機能低下)

 

対策は以下の通り:

 

・とにかく座らせ、立たせ、歩かせる

・拘束避け、眼鏡・補聴器を付け、歩かせ、トイレ誘導

13回「時間、場所、人」を繰り返し教えて見当識を保つ

・病棟に時計、カレンダーを置き、自宅のお気に入りを持って来てもらう

眠剤は極力避けるが、どうしても使うならロゼレム

・深夜のバイタルチェックをやめて不必要な覚醒を避ける

尿閉、便秘はせん妄起こす。トイレ時間誘導し下剤使用

抗精神病薬(セレネースリスパダールセロクエル等)は興奮で危険な時のみ少量使用

 

 

参考文献:Garen GS. Delirium in Hospitalized Older Adults. NEJM 2017; 377(15): 1456-66.