No. 133 膀胱留置カテーテル抜去について

膀胱留置カテーテル抜去について

 

No.16にも書いた膀胱留置カテーテルについてのより詳しいまとめです。

 

uekent.hatenablog.com

 

I. 留置カテーテルの抜去に向けた取り組みの先駆的研究

上田 朋宏:老人総合病院における入院患者の排尿管理について. 泌尿紀要37:583-588, 1991

  • カテーテル留置されていた患者157例中、139例(89%)はカテーテルフリーとなった
  • オムツ装着者158例の内、157例(99%)がオムツが不要になり、尿失禁なく排尿可能となった
  • カテーテルフリーないしオムツ不要となるまでの期間は平均144

半数は1ヶ月以内、1年以上の長い治療期間を要した症例が約1

 

つまり膀胱留置カテーテルの大半は抜去可能である

 

II. 膀胱留置カテーテルの適応

絶対的適応

相対的適応

尿閉の急性期

心疾患や脳出血など、救命に伴い体の循環動態を監視する必要のあるとき

手術や検査など、治療に伴い体の循環動態を監視する必要のあるとき

泌尿器系手術後の術創、膀胱、尿道の安静を必要とするとき

膀胱容量の高度の減少(蓄尿機能がほとんどない場合)

陰部の手術創や皮膚障害、褥瘡への尿汚染を防止する必要のあるとき

間欠的導尿の適応であるが、実施できないとき

夜間多尿のため、睡眠が著しく障害されるとき

体力低下に伴う負担を軽減する必要のあるとき

*適応期間は、おおむね短期間である。留置目的が消失しているにもかかわらず、留置しつづけることのないよう、適応の評価は定期的になされる必要がある。

 

III. 膀胱留置カテーテルのメリット(◯)とデメリット(

 

本人

家族

医療者

社会



◯腎臓への尿の逆流防止

◯膀胱内の残尿の消失

◯排尿動作不要で安静が維持できる

尿路感染を起こす

膀胱の萎縮を引き起こしやすい

残存機能を低下させやすい

結石ができやすい

不快感や疼痛を伴うことがある

行動が制限される

尿道口から尿が漏れることがある

◯介護の軽減

◯尿の片付けが楽

◯夜間睡眠の確保

カテーテル管理が必要

◯尿量が正確に測定できる

◯介護の軽減

◯尿の片付けが楽

カテーテル管理が必要

カテーテル交換が必要

 



◯寝衣の尿汚染への心配軽減

◯家族に対する心理的負担軽減

他人にカテーテル蓄尿袋が見えることによる羞恥心

自己イメージの崩壊

◯尿汚染の心配軽減

管理の心理的負担

罪悪感

家族イメージの崩壊

管理の心理的負担

病気や老いへのマイナスイメージ



尊厳の喪失

経済的負担

行動範囲の限局

住環境の不適合

◯行動範囲の拡大

経済的負担

薬物治療以外の治療やケアに対する経済的保障がほとんどない

他職種とのチーム形成が困難

多剤耐性菌のリスク

経済的負担の増加

 

IV. カテーテルの留置期間

・留置目的のある期間のみ。目的が消失したら即抜去

・定期的なカテーテルの交換は意味がなく、挿入による感染機会を増やすだけ

・感染率は14日間の留置で 100

 

V. カテーテル留置の合併症

尿路感染症、尿路結石、尿道損傷や狭窄、膀胱刺激症状、萎縮膀胱

 

VI. カテーテル抜去の手順

1.朝から午前中に抜去する

2.抜去時刻と、抜去前に排尿バックに貯留していた排尿量を記録する

3.水分摂取を勧め、尿意を確認する

尿意を認めたら自排尿を促す。尿意が曖昧な場合は2-3時間おきに、オムツ内排尿と超音波尿量測定器による膀胱内の残尿量をチェック尿意を確認し、排尿誘導を行う。

4.その日のうちに必ず1度は導尿して残尿を測定し、今後の導尿回数を決定する

翌日以降も主治医の指示を受けながら、残尿量に合わせて導尿回数スケールを設定して経過を見る。

自然排尿が認めらない場合も、2週間は間歇導尿を続ける。

5.排尿日誌を書く

尿意の有無、排尿量、排尿(失禁)回数などを記録する。

6.抜去後の排尿症状の観察をする

抜去後は一時的に、排尿筋刺激症状(頻尿、尿意切迫感)が生じやすい。十分な水分摂取、排尿時に座位姿勢を促し、腹圧を十分にかけられる姿勢を工夫することで残尿が少なくなり、排尿機能が次第に改善しやすくなる。

 

a) カテーテル抜去後、自排尿があった場合

1.できる限りトイレでの排尿を支援する

2.尿道カテーテル抜去後6時間の間に自尿があれば、その後残尿測定を行い

残尿100 ml未満・・・・導尿不要

100199 ml・・・1/

200299 ml・・・2/

300399 ml・・・3/

400499 ml・・・4/

500 ml以上・・・・残尿が500 ml以上にならないように適宜回数を増やす

3.夜間は、睡眠と安全に考慮しながら排尿行動を支援する

4.排尿日誌によるモニタリングを継続する

 

b) カテーテル抜去後、自排尿がない場合

1.飲水をすすめながら、排尿誘導を実施する

2.導尿を実施する

  • 抜去後6時間経っても自尿がなければ、14回の導尿からスタートする。
  • 残尿500mlで膀胱内に負担がかかるため、6時間未満であっても、超音波尿量測定器で500ml前後の残尿が確認された時には導尿を行う。
  • 14回の導尿の時間は、朝・昼・夜・寝る前といった間隔でよい。等間隔でなくてよいが、8時間以上の間隔をあけない。
  • 次の日の導尿回数は、前日の残尿の記録の最低値を見て決める。
  • 12週間の間欠導尿の継続が必要であることを認識する。

No. 132 めまい

めまい

 

「めまい」を訴える患者さんは少なくありません。この時大切なのは、「めまい」ということばが具体的にどの様な症状なのかを聞くことです。視界がぐるぐると回っている「回転性めまい」の場合や、起立性低血圧などによる意識消失の一歩手前「前失神」の場合、小脳失調などによる「平衡障害」、筋力低下などによる「ふらつき」まで、様々なものがどれも「めまい」と表現される場合があるので注意が必要です。

この中で「回転性めまい」を示す代表的な疾患として、良性発作性頭位めまい症 ( BPPV:benign paroxysmal positional vertigo)という疾患があります。「めまい」を訴える疾患のうちの4割を占める、最も頻度の高い疾患です。よく患者さんが「わたしはメニエルがあるから」と言う場合の「メニエル」は本当のメニエル病ではなく、このBPPVであることがほとんどです。メニエル病は内耳の疾患なので聴覚障害を伴います。一方BPPVは、その名が示す通り「良性」で時間が経てば自然に治ります。

 

BPPVは平衡感覚を司る半規管の中の耳石という石が、本来あるべきところから転がりだして動き回ることで平衡感覚に余計な刺激が加わり、めまいを引き起こします。頭の位置が変わると耳石が動くためにめまいが誘発されます。寝ていて座った時や寝返りをした時に、眼振を伴うめまいが生じれば、ほぼ間違いなくBPPVです。

 

治療は安静臥床でもよいのですが、中には長く症状が続く場合があります。早く直そうと思えば浮遊耳石置換法という、転がりだした耳石をあるべき場所に戻す方法が有効です(ネットで「Eply法」で検索すれば動画が見れます)。いくつかの内服薬や点滴薬がつかわれますが、どれもエビデンスはなく気休め程度の効果しかありません。

 

参考文献

今日の臨床サポート

坂本壮:あたりまえのことをあたりまえに 救急外来診療の原則集, 有限会社シーニュ, 2017.

No. 131 糖尿病性足病変

糖尿病性足病変

 

褥瘡に似て非なるものとして糖尿病患者に起こる足の潰瘍があります。末梢神経障害、末梢血管障害、感染症のいずれか、もしくはこれらの組み合わせによって起こります。

 

末梢神経障害が主な原因による皮膚潰瘍は、おもに関節の突出部に生じます。運動神経障害や自律神経障害により皮膚の乾燥や骨の変形を招き、外傷や熱唱、靴擦れをきっかけにしてできた傷から進展してゆきます。一般的なフットケアと適切なフットウェアなどによる除圧が必要です。

 

末梢血管障害いわゆるPAD(peripheral arterial disease)を主とする皮膚潰瘍の場合は、循環の末端である足趾や踵から始まります。踵から始まるものの場合、いわゆる褥瘡と間違われることがあり、褥瘡と判断して除圧をしたり、壊死組織をデブリードマンしたりして肉芽形成を促しても、そもそもの血流がないため全く良くなりません。治療にはそれらの処置に加えて血行再建術が必要です。

 

褥瘡かPADよるものかの判断のためには、足背動脈が触知できるかどうかが判断の参考になります。またPADによる潰瘍は、潰瘍の周縁は毛細血管の拡張により赤くなり(これをred ring signと呼びます)、さらに肉芽組織が形成されにくいという特徴があり、ことから普通の褥瘡ではないことが推測できます。そして、ABI(ankle brachial index)を計測したり、CTAやMRAによる画像診断を行います。

 

参考文献

今日の臨床サポート

寺師 浩人:足の褥瘡について, 褥瘡会誌. 16(2):107*111, 2014.

No. 130 高齢者の脱水

高齢者の脱水

 

体の中の総水分量は年齢とともに減少します。細胞外液(≒血管の中を流れている水分)の量は高齢者でもそれほど減少しませんが細胞内液が減少します。これは、年齢とともに水分を多く貯蔵できる筋肉の細胞が減少し、水分を維持しにくい脂肪細胞が相対的に増えるためです。このため、循環血液量が減少した際に、若年者では細胞内液が血管内に移行することで循環血液量を維持しますが、高齢者では細胞内液が少ないために脱水に陥りやすくなります。

 

さらに高齢者は口渇中枢の閾値が上がるために、脱水になっても口渇感が無く水分摂取しなかったり、失禁や頻尿を気にして水分摂取を意図的に制限したり、食欲低下や嚥下障害によって慢性的に水分摂取が減少していることもあります。また利尿作用のある薬を内服していることもよくあり、脱水傾向を助長します。

 

高齢者が脱水になると、尿路感染や肺炎になる可能性の増加、せん妄の増悪、脳卒中や心疾患の罹患率の増加、褥瘡などの皮膚症状の悪化、低血圧に伴う転倒や骨折の危険性の増加などにつながります。

 

脱水になるきっかけとしては、水分摂取量が500ml/日以下(夏は1L/日以下)、食事の変化、嘔吐、下痢、感染症などの発熱性疾患などがあり、以下の症状を呈するようになります。

 

外観の変化:目のくぼみ、表情が乏しい、口腔粘膜の乾燥、腋窩の乾燥、とくに腋窩は最後まで湿っている部分なのでここが乾燥していると脱水が進んでいる可能性が高くなります。

全身状態:体重の減少、易疲労性、食欲不振、腹痛

精神症状:意識障害、不安、錯乱、傾眠、昏迷、左右差のない神経症状、重症では痙攣発作も起こることがあり、脳卒中との鑑別が問題になります

皮膚ツルゴールの低下:手背の皮膚をつまみ上げて、離した後の皮膚の戻りをみます。2秒以内に戻らない場合は脱水を疑います

体位性低血圧:脱水でも仰臥位から側臥位や坐位、立位になると血圧が下がることがありますが、他の原因(長期臥床、降圧薬の影響など)でも起こるため注意が必要です。

Capillary refilling time(毛細血管再充満時間):強く爪の部分を圧迫して離した時に爪の下の色が戻るまでの時間を計測します。2秒以内なら正常で、延長している場合は末梢循環不全を疑います。

 

脱水にも細かく分けると種類があり、水分と電解質(おもにナトリウム)の量で分けられます。

高張性脱水:ナトリウムよりも水が多く失われた状態で、経口摂取が慢性的に少ない場合に多い

低張性脱水:水よりナトリウムが多く失われた状態で、高齢者で多い

等張性脱水:嘔吐、下痢、発熱、出血などで急激に大量の水とナトリウムを失った場合に多い

 

脱水の予防のためには適切な水分補給が大事です。高齢者の水分摂取の目安は、体重あたり2~2.5%程度とされています(60kgの人なら1200~1500ml/日)。注視しないといけないのは、脱水を恐るあまりに過度に飲水すると、電解質異常の原因となりますので注意が必要です。またどんなにたくさん水分摂取をしてもいわゆる「血液さらさら」の状態にはなりません。すでに脱水になっている場合の治療は輸液療法です。口から飲める場合は経口での水分摂取でも良いですが。口から飲めなかったり、電解質異常や循環不全がある場合には点滴による治療が必要です。ナトリウムの失われている程度や循環不全の状態によって、どのような種類の輸液をどのくらいの速度で点滴するかが変わってきます。

 

参考文献 大庭建三:すぐに使える高齢者総合診療ノート 2版, 日本医事新報社, 2017.

No. 129 骨盤骨折

骨盤骨折

 

骨盤は脊柱の根元にある強固な輪を形成する骨です。骨盤の骨折はまれで、成人の骨折のうちの3%を占めます。多くの原因は外傷であり、自動車との衝突などの高エネルギー外傷です。骨盤の近くには重要な血管や臓器が存在するため、骨盤骨折では多量の出血など緊急治療を必要とすることがあります。骨の弱った高齢者では、普通の転倒による軽い衝撃でも骨盤骨折を起こすことがあります。治療は骨折の重症度によって様々です。低エネルギーの骨折では保存的な治療が選択されますが、高エネルギー外傷による骨盤骨折では患者のADL能力回復のために手術による整復と固定を行うのが一般的です。

 

解剖 

骨盤は体幹の底にあたる骨で出来た輪っかで、脊柱と下肢を繋いでいます。骨盤を形成する骨には以下のものが含まれます:仙骨(脊柱の下に続く大きな三角形の骨)、尾骨、寛骨

寛骨は3つの骨からなります-腸骨、坐骨、恥骨-これらは小児期には離れていますが、成長とともに癒合します。これら3つの骨が寛骨臼を形成し、股関節のソケット部分になっています。靭帯が強固につなぎ合わせることでボウル嬢の空間を形成しています。主だった神経や血管、腸管の一部、膀胱、生殖器が骨盤輪を通過します。骨盤はこれらの重要な臓器を保護しています。また股関節や大腿、腹部の筋の付着部位としての機能も担っています。

 

定義

骨盤が輪っか状の構造であるために、1箇所の骨折が他の場所の骨折や靭帯損傷を引き起こすことがあります。骨盤骨折にはいくつかのよくあるパターンがあることがわかっています。そのパターンは原因となった外傷による力の加わった方向と力の量によって決まります。

あるパターンによる定義に加えて、骨盤骨折では「安定型」「不安定型」という分類がなされます。これは、骨盤輪の構造に加わったダメージの程度によって決まります。

安定型骨折 このタイプの骨折では、骨盤輪は1カ所しか損傷されておらず、骨折部に偏移はありません。低エネルギー骨折の多くは安定型骨折です。安定型骨折には以下のパターンがあります: 

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安定型骨折

 

不安定型骨折 このタイプの骨折では、骨盤輪の2カ所以上で骨折しており、骨折面は偏移していることがほとんどです。このタイプの骨折は高エネルギー外傷によって起こります。不安定型骨盤骨折には以下のパターンがあります: 

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不安定型骨折

安定型も不安定型も、骨が皮膚を突き破って外に出たら「開放骨折」皮膚の損傷がなければ「閉鎖型」に分けられます。開放骨折は特に重症で、一旦皮膚が損傷されると傷口と骨に感染を引き起こす可能性がでてきます。迅速な感染予防が必要です。

 

原因

高エネルギー外傷 骨盤骨折は以下の様な高エネルギー外傷によって引き起こされます:車やバイクとの衝突、交通事故、はしごなどの高所からの転落。

力の加わる方向と量によっては、命に関わることがあり緊急手術が必要となります。

脆弱な骨 骨が脆い場合にも骨盤骨折が起こることがあり、骨粗鬆症の高齢者でよくみられます。これらの患者では、浴槽の出入りや階段昇降などの日常生活動作の中で、立った状態から転倒しただけで骨折することもあります。このとき多くの場合は骨盤輪の構造は保たれた安定型の骨折のことが多いですが、単独の骨の骨折の場合もあります。

その他の原因 稀ですが、ハムストリングが付着する部位の坐骨に剥離骨折を生じることがあります。このタイプの骨折は脱落骨折と呼ばれ、成長期のアスリートによく見られます。脱落骨折は通常、骨盤の不安定性や臓器損傷は生じません。

 

症状

骨折した骨盤には通常、痛みが出現します。この痛みは股関節を動かしたり歩こうとすると悪化します。患者は痛みを避けるために股関節や膝を曲げた状態にしようとします。股関節周囲の主張やあざがみられることもあります。

 

対応

可及的な固定 高エネルギー外傷による骨折の場合は、救急救命センターなどへ運ばれ初期治療が行われます。その様な患者の場合、骨盤の他に頭部や胸部、腹部、下肢など他の外傷があることもあります。それらの外傷により、明らかに失血するとショック状態になり、多臓器不全から命に関わります。したがって高エネルギー外傷による骨盤骨折の治療は、多くの専門家による多方面からのアプローチを必要とします。場合によっては骨折の治療よりも先に、気道確保、酸素化、循環動態の安定を優先する必要があります。

身体診察 骨盤、股関節、下肢を注意深く診察し、神経学的異常所見の有無を確認します。

画像検査

レントゲン 骨盤骨折では複数の方向からの撮影が必要です。 

CTスキャン 骨盤骨折は複雑なのでほぼ全例CTによる評価が行われます。

MRIスキャン めったにないですがレントゲンやCTでみつからないような骨折を同定するためにMRIが用いられることがあります。

 

治療

治療に影響する因子には以下のものがあります:骨折のパターン、ずれている骨の数、全身状態や合併症。

 

保存的治療

安定型骨折で骨折部の偏移がないか、あってもわずかな場合は保存療法が選択されます。保存療法には以下のものが含まれます:

歩行補助具 下肢への荷重を避けるために杖や歩行器を3ヶ月間、もしくは骨が癒合するまでの期間用います。もし両方の下肢に外傷があれば、免荷期間中は車椅子を使用します。

薬物療法 鎮痛薬や下肢の静脈血栓予防のための抗凝固薬や補液が用いられます。

 

外科的治療

不安定型骨折では複数回の手術が必要な場合もあります。

外固定 この手術は金属製のピンやスクリューを皮膚や筋を小切開して骨に挿入して固定する方法です。ピンやスクリューは皮膚の外に飛びてており、それをカーボン製の棒でつないで固定します。外部固定具は、骨折片を適切な位置に保持する安定化フレームとして機能します。骨癒合が完了するまで外部固定装置が使用される場合もありますが、 より複雑な処置に耐えられない患者で、その処置が可能になるまでの一時的処置として外部固定具が使用されることもあります。 

 

直達牽引 直達牽引は滑車を用いて重りで骨を整復する装置です。外傷後すぐに用いられ術後は除去されることが多いです。場合によっては、まれですが臼蓋骨折は直達牽引のみで治療することもあります。直達牽引中は、金属のピンが大腿骨や下腿の骨に挿入されます。挿入されたピンに重りが取り付けられて、ゆっくりと牽引し骨折片を正常な位置に保ちます。多くの患者で直達牽引によって痛みが軽減します。

整復と内固定 この手術では、偏移した骨片をあるべき位置に戻し、スクリューや金属プレートで固定します。

 

合併症

手術にはリスクが伴います。起こりうる合併症には以下のものがあります:感染症などの創傷治癒の問題、神経や血管の損傷、血栓症肺塞栓症

 

回復期のケア

疼痛の管理 術後も疼痛はあります。オピオイドやNSAIDs、局所麻酔薬などが用いられます。ただしオピオイドには呼吸抑制や依存性などの副作用もあるため、使用は短期間に留めます。

早期離床 術後は早期離床し荷重制限を守った上での歩行練習などをできるだけ早く行います。

理学療法 股関節の可動域維持改善および、下肢の筋力強化、体力向上を目的とした運動を行いADL能力につなげます。

血栓予防 早期離床が推奨されていますが、術後はどうしても動きは制限されているため、下肢の深部静脈血栓症予防のため抗凝固薬などを用います

荷重 全荷重が許可されるのは通常3ヶ月経過後、もしくは骨癒合が完全に得られてからです。それまでは杖や歩行器を使用します。

 

予後

安定型骨折は治癒良好です。自動車事故などの高エネルギー外傷による不安定型骨盤骨折は、重度の出血、内臓臓器損傷、感染を含む重大な合併症を引き起こすことがあります。これらの外傷の治療が上手くいけば、骨折自体の治癒は良いです。

骨盤周りの筋に損傷が生じた場合、数ヶ月間痛みを伴うことがあります。これらの筋が再び強くなるには最大1年かかることがあります。痛みや運動障害、および性的機能不全などの骨盤骨折に伴う神経や臓器の損傷による症状が残存することがあります。

 

from the American Academy of Orthopedic Surgeons

https://orthoinfo.aaos.org/en/diseases--conditions/pelvic-fractures/

No. 128 点滴をとめるコツ

点滴をとめるコツ

 

回復期リハ病棟に入院中の患者さんでも点滴が必要になることがしばしばあります。全身状態が許せば点滴したままでもリハは可能な限り行わなければいけません。この時、点滴刺入部に負担がかからないように配慮し、「引っかかって点滴が抜けてしまった」なんてことにならないようにリハを行います。

 それでも、安静に寝ていて点滴する場合に比べればリスクは高くなります。そこで点滴を固定する際にちょっとした工夫を行うことで、血管が破綻して刺し直しになったり、抜けたりする可能性を減らすことが大事になってきます。

 まず、穿刺した後にチューブを固定する際には、チューブを全周性に固定します。しっかり固定しようと思って皮膚にべたっとテーブを貼ると、逆に固定力は落ちます。ちょうど断面が「Ω」の形になるようにチューブを取り囲んでテープを貼れば、横方向の動きに対しては余裕があり、引っ張り方向には、摩擦が強くなるので抜けにくくなります(図1)。

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図1 参考文献より

さらに、チューブと穿刺部との接続部を下に押すような形でテープを貼ると、刺入部に上方向の力がかかってしまい、カニューレが入っている血管の壁に無駄な力がかかり血管の壁が破れる原因になります。ここでもチューブを全周性に固定して、刺入した角度のままカニューレが固定できるように意識して止めると、血管の壁が破れて点滴が漏れる可能性を減らすことができます(図2)。

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図2 参考文献より

また、これは当たり前かもしれませんが、固定する際には、チューブが関節をまたぐ状態は避けましょう。関節運動につられて刺入部が動く可能性があります(図3)。

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図3 参考文献より

参考文献:大村和宏・川村哲也・武田聡 編集:専門医が教える研修医のための診療基本手技, 医学書院, 2018.

No. 127 プレゼンテーションスキル

プレゼンテーションスキル

 

No.26でカルテの書き方について触れました。

 

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カルテ記載と共に重要な技術として「プレゼンテーションスキル」があります。つまり人前で発表する技術のことです。医療現場で働いていると、多職種が集まって行うカンファレンスや症例検討会、または学会発表など、プレゼンテーションを行う機会がたくさんあります。学会発表はやや特殊なので、今回はカンファレンスや症例検討会で担当患者のプレゼンテーションする場合のコツについて述べます。

 

プレゼンテーションの元となる情報は基本的にカルテ情報です。なので必要な情報を収集し、カルテをきちんと書くことができることが、まずは下準備として必要です。カルテがしっかり作ることができれば、プレゼンテーションも楽にできます。ただし、カルテをそのまま読み上げても良いプレゼンテーションにはなりません。というのも、書かれた文章を読む場合は読み手は、好きに目線を動かして自分の欲しい情報を拾い上げられますが、話している内容を聞く場合は、話す順番にしか情報は得られません。情報の取捨選択もできません。多くの場合時間も限られています。そんな臨床現場で必要なプレゼンテーションのコツについて、下記の参考文献から一部内容を回復期リハ向けに変更して記載します。

 

その1. Opening statementを入れる

カルテでは必要な情報は自分で好きに探しながら読めるので必要ないですが、プレゼンテーションでは最初にその患者さんの概要が把握できる文章を最初にもってきます。内容は「背景+年齢+性別+病名」を含んだもので、ひと息で言える長さにします。例えば「一人暮らしで軽度認知機能低下はありましたが、日常生活自立していた80歳女性の脳出血片麻痺の患者です」といった具合です。この一文で、聞く側はなんとなくイメージをもって、続きのプレゼンテーションを聞くことができます。

 

その2. 最初にディスカッションのポイントを提示する

Opening statementの次は、細かい評価内容をすぐに話すのではなく、これからのカンファレンスや検討会でディスカッションしたいと自分が考えているポイントを述べます。そうすることで、聞き手もその後のプレゼンテーションをそのポイントを頭において聞くことができます。例えば、上記のOpening statementに続いて「運動麻痺が重度で、目標設定ができずに困っています。評価のアセスメントまででプレゼンを止めますので、目標設定についてご指導ください。」の様に言うのもありです。

 

その3. SとOは関連する情報のみを話す

上記の前振りのあとは、病歴聴取や評価した内容について述べることになりますが、ここでは得られた情報をすべて述べるのではなく、アセスメントに関係のある情報に絞って述べるようにします。この時は「〇〇がある」という情報も大事ですが、「〇〇がない(あるべきものがない)」という情報も重要です。そして得られた情報から、自分が考えるアセスメントを述べ、最後にアセスメントに準じた目標や診療計画を述べて終了です。

 

以上のことからわかるように、これから皆で議論したいこと、助言してほしいこと、伝えたいこと、から逆算してプレゼンテーションを設計することが、短時間で伝わる良いプレゼンテーションを行うコツです。

職種によって話し方(=プレゼンテーションの仕方)には特徴があるそうです。医療従事者は情報を伝えるときに結果から話して追加の情報を述べる傾向があり、介護職は、時系列順にはじめから結果まで話す傾向があるそうです。医療職の中でも細かい違いがあるかもしれません。多職種が集うカンファレンスでは、見ている視点、得ている情報も異なるため、共通の枠組みが必要になるかもしれません。最近はICFの概念を枠組みとして利用して多職種カンファレンスを行なっている所もあります。

 

参考文献:佐藤健太:「型」が身につくカルテの書き方 第1版, 医学書院, 2015.