No.113 低カリウム血症

カリウム血症

 

カリウム血症はありふれた検査異常です。3.6mEq/L以下の低カリウム血症は入院患者の21%に認められるという報告があります。ほとんどの場合は特に症状もなく、カリウムを補給したりする必要もありませんが、中には急いで治療する必要のある場合があります。

 

補正を急ぐ場合

重度の低カリウム血症(<2.5 mEq/L)

有症状(筋力低下、動悸、呼吸筋不全、横紋筋融解)

カリウム血症の急激な進行

心電図異常、不整脈

背景疾患(急性心筋梗塞心不全、肝硬変)

 

カリウム血症になると心筋細胞が興奮しやすくなり、不整脈を引き起こします。誘発される不整脈には、洞性徐脈、心室頻拍、心室細動torsades de pointesなどがあります(どんな波形になるかはネットで検索してみてください)。心不全の患者さんでは低カリウム血症は突然死のリスクを上げるとされており、4.55.5 mEq/Lに保つことが推奨されています。また肝硬変の患者さんでは、低カリウム血症は肝性脳症のリスクを高めます。

 

カリウムはそもそも98%が細胞内にあります。細胞内のカリウム濃度は140 mEq/Lで、細胞外液(≒血液)では 4 mEq/Lでバランスが取れています。検査で見つかる低カリウム血症というのはこの細胞外液にあるわずかなカリウムの減少です。細胞外液のカリウムが少なくなる原因は

 

・細胞内へのシフト:各種ホルモンの働きによって細胞内へ取り込まれる

・腎臓からの排泄:もともと余分なカリウムは腎臓から排泄されますがその機能が何らかの原因で亢進

・腎臓以外からの排泄:嘔吐、下痢、発汗など

・摂取量が少ない:低栄養状態

 

のどれかです。細胞内へカリウムをシフトさせるのは、インスリンやアルドステロン、甲状腺ホルモンなどです。つまりインスリンを使用している患者さんに低カリウム血症が起きた時は要注意です。利尿薬は腎臓からのカリウムの排泄を促進します。また下痢や嘔吐、そして発汗によってもカリウムは体外へ排泄されます。平均すると人は1日にすくなくとも 25 mEqカリウムを排泄するため、25 mEq以上摂取していないと徐々にカリウム値が低下します。ただし摂取不足だけで低カリウム血症になるには3週間くらいかかります。

 

カリウム血症を起こす薬剤

アドレナリン、気管支拡張薬、カフェイン、テオフィリン、インスリン、ベラパミル

アセタゾラミド、サイアザイド、フロセミド、ミネラルコルチコイド、甘草(多くの漢方薬に含まれる)、グルココルチコイド、ペニシリン、アンピシリン、緩下剤、浣腸

 

カリウム血症を点滴で急激に補正すると、心停止を引き起こすことがあるため、決められた量を、適切な速度で投与する必要があります。急ぐ必要がなく内服が可能ならば内服薬によって補正をしたほうが安全です。上記のような補正を急ぐ必要がある場合は、20 mEq/時を超えない速度での投与が推奨されています。他にも、低マグネシム血症や低リン血症を合併している場合は、それらも補正しなければなりません。

 

参考文献

長野広之:恐ろしいカリウム低下に適切に対処するためにすべきことは? レジデントノート増刊Vol.20-No.8,2018.

No.112 不明熱(FUO)

以下は、Harold W. Horowitz : PERSPECTIVE; Fever of Unknown Origins or Fever of Too Many Origins? NEJM. JAN 17, 2013.の要約です。

不明熱(FUO : Fever of Unknown Origin)とは、38.3 を超える発熱が3週間持続しているにもかかわらず、入院しての1週間の検査によっても診断確定されず、複数回繰り返す状態、と1961年にPetersdorfとBeesonによって定義されました。今は当時よりも検査技術や疾病構造が変化したため、定義が変更され「3日間の入院検査でも診断確定されない3週間持続する発熱」とされています。

PetersdorfとBeesonのオリジナルの報告によると、FUOの原因は感染症(36%)、悪性疾患(19%)、膠原病(19%)、その他薬剤熱など(19%)となっており、真の原因不明は7%でした。1961年当時と比較すれば、CTやMRIなどの画像機器や、培養技術・血清学的分析・PCRなどの検査の進歩など、発熱の原因を追求する手段が増えているにも関わらず、当時よりも多くのFUOの診断がつかなくなり、今やFUOのうちの30%が原因不明のままとなっています。

古典的FUOの数は減ってきており、最近はICUに入院している頭部外傷やその他の神経学的疾患や認知機能障害のある患者、人工呼吸器に繋がれていたり、尿道カテーテルや中心/末梢静脈ルートのある患者、手術後の患者、そしてすでに広域の抗菌薬を投与されている患者などでよくみられます。それらの患者では何週間も、時には何ヶ月も発熱が続くのに、その他の敗血症の兆候が認められません。

そのような患者の身体診察をすると、局所の浮腫や、軽度の仙骨部褥瘡、薬疹っぽくない皮疹、軽度の腹部膨満、明らかな感染兆候のない傷、など熱の原因とは言えない程度の所見ばかり、ということがよくあります。また検査をすると、白血球数は正常か軽度上昇に留まり、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が培養で生えたり生えなかったり、尿検査も膿尿だったりグラム陰性菌がいたりいなかったり、喀痰からはわずかな白血球しか検出されず、胸部画像検査では「肺炎を否定できない」程度の所見しか認めなかったりします。CTでは「術後性変化もしくはわずかな液体の貯留を認めるが感染症を示唆する初見ではない」というような読影結果が返ってきて、副鼻腔の画像検査をすると「粘膜の肥厚を認めるが他の副鼻腔炎の初見」なんてことになります。静脈エコーでは血栓症の所見はなく、CRPは日によって変動してあてにならない、CD検査は陰性、経胸壁心エコーは陰性。こんなにたくさんの検査をしたにも関わらず、発熱の原因を特定できない。このような発熱は、DurackとStreetによると「医原性の感染症」がもっとも考えられます。通常の感染症よりも広い範囲の感染原因を考える必要があり、実際、FUOというよりも、「原因が多数ある発熱Fevers of Too Many Origins (FTMOs)」かもしれません。

こんな時に抗菌薬を広域に投与し続けるのか、中止するのか決定することは簡単ではありません。広域な抗菌薬は「耐性菌を作らないように使用を制限すべきである」という原則と、「患者を救うために適切な抗菌薬(それはつまり多くの耐性菌もカバーする広域な抗菌薬)を迅速に始めるべきである」という相反する原則を同時に考える必要があるからです。古典的なFUOでは時に患者が元気な場合もありますが、FTMOsの多くは衰弱しています。ときに完全に回復して元の生活に戻る人もいるものの、多くは死ぬか長期療養の施設へと送られることになります。そんな中、おそらく無効であると考えられる抗菌薬を使用することが倫理的に正しいかは議論の余地のある問題です。投与の結果として耐性菌を作り、それが他の患者へと伝播するかもしれません。他方で、抗菌薬投与によって命が助かる可能性もゼロではないのです。そこには明確な指示や倫理的指針、クリニカルパスは今の所ありません。様々な選択肢を熟考するにつけて、抗菌薬を使うか止めるか、もしくはさらなる検査をするかどうかについて考えていると次第に自信がなくなり、難しい決断を次の日に先延ばししてしまうのです。

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No. 111 インフルエンザ迅速検査について

インフルエンザ迅速検査について

 

インフルエンザの季節が近づいてまいりました。院内での流行は避けたいところですが、起こるときには起こります。早期発見のためにインフルエンザの迅速検査キットを用いることがあります。しかしこの検査にはいろいろと問題があります。

 

まず正しく検体を採取しないと正確な結果がでません。本当はインフルエンザなのに陰性(=偽陰性といいます)になってしまいます。下の図のように綿棒を差し込む方向は、上ではなく、まっすくのどの奥へ向かって進めて咽頭の後壁からぬぐい液を採取します。

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*極論で語る感染症内科 より転載

 

ただし、上手に検体をとったとしてもこの検査自体が、感度が低いためにすべてのインフルエンザの患者さんを拾い上げることはできません。

 

インフルエンザ感染症に対する迅速キットの感度は、成人では53.9%[47.9-59.8]という報告があります。これはつまり、インフルエンザの患者のうち53.9%しか陽性にならなず、残りの46.1%は見逃すということです。「陰性」と結果が出ても本当はインフルエンザということは大いにあり得ます。ですので、最終的には迅速検査の結果のみで判断するのではなく、地域の流行状況や、臨床症状などから総合的に判断します。たとえば、インフルエンザの時には咽頭後壁にイクラのように見えるリンパ濾胞ができることが多く、これがあると(迅速検査キットよりも)高い確率でインフルエンザと診断できます。

 

入院患者さんは高齢で免疫能の下がった人も多く、インフルエンザも重症化しやすいため診断されれば抗ウィルス薬による治療がなされます。しかし、従来健康で重症化リスクのないような人の場合は、検査キットでたとえ陽性となっても必ず抗ウィルス薬による治療が必要なわけではありません。抗ウィルス薬による効果は症状が1日早く改善するというものです。そもそも症状が軽くすんでいるなら、家で大人しく休んでいればよく、それはインフルエンザ以外の風邪や体調不良と同じです。本当にしんどくてどうにかしてほしい時に受診すればよいのです。

 

また最近は減ってきましたが「治癒証明」を要求する会社や学校が時にあります。これは全く無意味で、むしろ不利益(お金がかかる、受診先のクリニックの無駄な仕事が増える、無駄に人と接触して感染させるリスクが増えるなど)の方が多いです。そもそも治ったことの証明は不可能です。体調不良のときは皆お互い様で、無理せず、感染を広めないように休みましょう。

 

参考

Hospitalist~病院総合診療医~ 「熱が出てすぐはインフル検査をしない」は妥当か?http://hospitalist-gim.blogspot.com/2016/12/blog-post_30.html

No. 110 脳卒中患者にも筋トレは有効

脳卒中患者にも筋トレは有効

 

リハ業界では過去にさんざん議論になった問題のひとつに「努力を要する活動や筋トレは、脳卒中片麻痺患者に有益か?それとも痙性を増強してしまい有害か?」というものがありました。これについては「筋トレは脳卒中片麻痺患者の痙性を増悪しない」ということが1990年代に行われた研究で示されました。これ以降、脳卒中後のリハビリテーションプログラムには筋トレが積極的に推奨されるようになりました。

一般的には、筋トレは1948年にDeLormeによって提唱された最大収縮の法則に則って行われます。健常者の場合は、最大収縮の60-80%の力で8-10回繰り返すトレーニングを1-3セット、週に2、3回行うことが推奨されますが、脳卒中患者では、回数はより多く10-15回の繰り返しを1セットとして、負荷は健常者よりも少なくてよいとされてます。ある研究では最大収縮の40%でも有効であったとの報告もあります。これは、脳卒中患者での筋トレの効果は、筋の増大よりも神経組織の再構築の結果によるところが大きいことに起因します。

具体的な脳卒中後の筋トレにはいくつか方法があります:

1.いわゆる「筋トレ」

最大筋力の70-80%の負荷をかける筋トレを、合計16時間行うと身体機能に改善が認められます

2.課題志向型トレーニン

獲得したい動作に特化したトレーニングを行うことで、その機能が改善することがわかっています。例えば椅子からの立ち上がり動作が上達したければ、それに必要な筋トレとバランスの練習を行う、といった具合です

3. 有酸素運動をプラス

筋トレと有酸素運動の併用が高齢者には有効です。運動強度についてはカルボーネンの式から算出した予測最大心拍予備能HRR[(=220-年齢-安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数]を指標にして行います。脳卒中患者では目HRRの50-70%の有酸素運動がよいとされています

4. 機能的電気刺激療法

筋を電気刺激で収縮させる方法です。この方法では他のトレーニングよりも、より多くの筋線維を運動に無理やり参加させることができるため代謝が増えるという効果があります

これらの筋トレの脳卒中患者に対する効果を検証したメタアナリシスで、最も有効であるとされたのは、1番の、いわゆる「筋トレ」でした。トレーニング方法も流行り廃りがありますが、結局は基本が大切です。

参考

S. Wist et al. : Muscle strengthening for hemiparesis after stroke: A meta-analysis. Annals of Physical and Rehabilitation Medicine 59 (2016) 114–124

No. 109 トラゾドン

トラゾドン

 

高齢者の不眠に対してベンゾジアゼピン系の睡眠薬を使用することの危険性については「No.60 高齢者に睡眠薬は安全か?」で述べました。その時、トラゾドンという薬についても少し触れましたが、今回はこのトラゾドンについて掘り下げます。

 

トラゾドンはそもそも 抗うつ薬 です。1980年代にイタリアで開発された古い薬で、抗うつ薬としては新しいよりよく効く薬が登場したことで、第一線から退いています。ところがトラゾドンには軽い鎮静作用、つまり眠くなる作用があるため、睡眠障害に対して用いられるようになりました。ただし、欧米では睡眠調整剤として一般的に使用されていますが、日本では保険診療の適応病名に不眠症は含まれないため、用いる時は適応外使用になります。

 

認知症のある人の不眠症に対するトラゾドンの効果を検証した研究では、50mgを内服することで、プラセボ(偽薬)よりも有効であり、トラゾドン1日50mgを2週間投与することにより、夜間の総睡眠時間を約40分延長し、しかも安全であったと報告されています。

 

実際に用いる場合には安全を考慮して、1日25mgで開始して、効果が不十分な場合に50mgまで増量する、という使い方をします。副作用としては、持続性勃起障害、過鎮静、躁転、かえって不眠になるなどがみられることがあり、また、1割程度の人には筋力低下がみられたとの報告もあり、経過観察は大切です。

 

できればトラゾドンも他の睡眠薬も使用せずに眠れるのが一番です。以下は睡眠障害の対応と治療ガイドラインに載っている12の指針です。

 

睡眠障害対処12の指針:

    1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分
    2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
    3. 眠たくなってから床に就く、就床時間にこだわりすぎない
    4. 同じ時間に毎日起床
    5. 光の利用で良い睡眠
    6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
    7. 昼寝をするなら15時前の20~30分
    8. 眠りが浅い時は、むしろ積極的に遅寝・早起き
    9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のピクつき・むずむず感は要注意
    10. 十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に
    11. 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
    12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全

睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版より

[rakuten:book:15870806:detail]

 

参考

小田陽彦:科学的認知症診療5Lessons, Signe, 2018.

No. 108 脳卒中片麻痺患者にとってより効果的な立ち上がり訓練

脳卒中片麻痺患者にとってより効果的な立ち上がり訓練

 

毎日行っている病棟での立ち上がり訓練、回復期リハ病棟では多くのところで行われています。せっかくやるならより効果的な方法で行いましょう。今回紹介する論文は、脳卒中後の片麻痺のある患者さんを対象に、麻痺側の下肢機能がよりいっそう改善する立ち上がり訓練の方法について検証した論文です。

 

50名の脳卒中片麻痺患者を25名ずつの2つのグループにランダムに振り分けました。ひとつは、足を左右対称な位置にして立ち上がるいわゆる普通の立ち上がり訓練を行うグループ(コントロール群です) 、もうひとつは、麻痺した足を反対の足より後ろに位置して立ち上がり訓練を行うグループ(介入群)です。

 

両方のグループは立ち上がり訓練を4週間中、1週間に5回、30分間行いました。そして4週間の立ち上がり訓練の前後で、立ち上がりにかかる時間や、左右の足に体重がかかった割合、姿勢の揺れ具合、バランス能力を計測し比較されました。 

 

結果、立ち上がり訓練前と比較すると訓練後では2つのグループ両方ともに、立ち上がりの動きとバランスに有意な改善が見られました。 ところが、左右の足にバランスよく体重をかける能力は、コントロール群(平均変化0.06±0.05)よりも介入群(平均変化0.17±0.10)の方が有意な改善が見られました。さらに、バーグバランススコアはコントロール群(平均変化5.8±2.8)よりも介入群(平均変化8.4±3.1)において有意に高くなりました。

 

つまり、立ち上がり訓練をすれば、どちらの方法でも立ち上がりの動きなどに改善が見られましたが、足を左右対称な位置で立ち上がるよりも、麻痺した足を反対の足より後ろにして立ち上がり訓練を行った方が、バランスがより大きく改善したのです。 

 

この二つの足の位置の違いがどのようか影響を及ぼすかについては、実際に自分で試してみらたわかるとおもいますが、左右対称の位置で立ち上がれば健常者であれば両方の足を均等に使って立ち上がります。しかし片麻痺患者では麻痺していない足の方に重心を傾けて立ち上がってしまいます。すると麻痺した足は立ち上がり動作にあまり関与しない状態になります。ところが、麻痺した足を後ろに引くと、後ろに引いた方の足を主に使って立ち上がらざるを得ない状態になるため、より麻痺側を鍛えることが出来たのです。

 

この方法は麻痺した上肢のリハではすでに取り入れられている概念で「強制使用( = CIM : Constraint Induced Movement ) 療法」という、強制的に麻痺している体を使わなければならない状況におく、という手法を下肢に応用したものと言えます。ちょっとした違いですが、的確な動作指導をするだけで運動の効果をより大きなものにすることができるのです。

 

Men Liu, et al. : Effects of modified sit-to-stand training on balance control in hemiplegic stroke patients: A randomized controlled trial.Clin Rehabil. 2015 Aug 27.

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No. 107 脊椎術後合併症

脊椎術後合併症

 

1.硬膜外血腫

概  要:硬膜外腔に血液が貯留して脊髄や馬尾・神経根を圧迫し、疼痛や麻痺を生じる

発症時期:術後2日以内が多いが、離床開始後に起こることもある

危険因子:抗血栓薬・抗凝固薬、広範囲の手術、内視鏡手術、高血圧、血液凝固能の低下

観察項目:ドレーンの排液、麻痺、疼痛


2.術後創部感染症

概  要:創内に細菌が増殖した状態

発症時期:インプラントなし:30日以内、インプラントあり:1年以内

危険因子:血糖コントロール不良、透析患者、免疫抑制薬、もともと感染がある、放射線治療後、低栄養、ステロイド、喫煙、肥満、高齢

観察項目:創部の発赤・腫脹・熱感・疼痛、発熱の有無、滲出液の有無・清浄、栄養状態


3.硬膜損傷・髄液漏

概  要:手術操作によって硬膜が破けて脳脊髄液が流出し皮下に貯留する。逆行性に髄膜炎を起こすことがある。安静にして自然治癒を待つが、難治性の場合はスパイナルドレナージを行う。

発症時期:術後

観察項目:低髄圧症状(頭痛、悪心・嘔吐)、髄膜刺激症状(発熱、頭痛、悪心・嘔吐、項部硬直、ケルニッヒ徴候


4.静脈血栓塞栓症

概  要:下肢静脈のうっ滞により血栓が形成される(DVT)。その血栓が剥がれて肺の動脈を詰める(PTE)

発症時期:離床後

危険因子:長期臥床、脱水、全身麻酔の手術、動脈硬化症、下肢麻痺、下肢静脈瘤、悪性腫瘍、喫煙

観察項目:DVT;下肢の変色・腫脹、ホーマンズ徴候(膝関節伸展位で足関節を他動的に背屈させた時に腓腹に痛みが生じる)

PTE;呼吸困難、胸痛、SpO2の低下


5.第5頚椎(C5)麻痺

概  要:頚椎の術後、強い肩痛が生じた後で肩関節の挙上困難が起こることがある。手術によって脊髄の圧迫が解除されることで、新たに神経根の圧迫が生じる場合がある。発症頻度は5%

発症時期:術後5~7日後。予後良好で90%の人は6ヶ月~1年で自然に回復する

危険因子:高齢者、多椎体切除

観察項目:廃用による筋萎縮・ROM制限の有無、疼痛